ラベンダーと星空の約束+α
白樺並木まで進み、そこでチビを肩から下ろした。
この景色は、昔からちっとも変わらねぇ…
花穂が風に揺れ、サワサワと音を立てる…
それを覆うのは、限りなく広がる星空で…
気の遠くなる程無数の星達が、輝きを競い合っている。
チビは「登れねー」と言いながら、白樺の幹にしがみつきジタバタしていた。
紫は草地に座り、ラベンダーの丘の向こうの星空を眺めている。
「紫龍おいで、お星様の話しをしてあげるよ」
「うん!」
「何座の話しがいい?」
「さそり!
あんねー、さそりって小っこいけどスゲェんだ!
毒針ブスッてやって、オリオンがバターンてなって…あんねーえっとねー………−−−−」
紫がチビに話してやってんじゃなく、逆になってんな…
チビは口が悪りぃし中身は俺に似て困るって紫はいつも言うが、
こうやって見ると、やっぱ中身も流星だろ。
二歳半にして全ての星座の名前と形を暗記したなんて、あいつの遺伝子を強く感じるよな。
それ教え込んだのは紫だけど、覚えるって事は星が好きな証拠。
紫龍はやっぱ、あいつの息子だ……
チビは紫の膝に座り、あいつの星座、蠍座の話しを、子供の足りねぇ言葉で夢中で説明していた。
紫は「うんうん」と楽しそうに聞き、時々補足してやっている。
あいつもこんな風に…白樺の木の下、ラベンダー畑と星空を視界に入れながら、
紫に星空を語るのが好きだった。
ガキの頃も3年前もな…
そして今は、あいつから聞いた話しを、紫が紫龍に聞かせてやっている。
流星から紫に…
紫から紫龍に……
星座の話しに俺は興味が持てねぇが、
受け継がれる話しってのは…なんか温ったかくていいな…
二人の横に腰を下ろし、俺も遠くの星空に目を遣った。
ラベンダーの丘の少し上、南西の方角に赤く光るアンタレスが見えた。
星に興味がなくても、それだけは知っている。
『流星の星』だと、紫に教え込まれたからな。
一際明るく赤く輝くアンタレスは、蠍座の心臓。
これも紫の受け売りだが、あいつの魂はあそこにあるんじゃねぇかって…思っちまう…