ラベンダーと星空の約束+α
蠍の心臓を遠くに望み、紫がチビに語る神話を聴きながら、心の中であいつに話し掛けていた。
なぁ流星…そこから見えてるか?
お前が夢中になってた星の話しは、紫が紫龍にちゃんと伝えてるぞ…嬉しいか?
紫と流星…
お前らはいつも、この景色の中に居たよな…
そんで…ガキの頃も大人になってからも、この場所で約束を重ねてきた…
ガキの頃のお前は…
『手術が成功したら、必ず戻るから待っていて』
と紫に言った。
大人になった紫は…
『私は傷付いても枯れたりしない。
涙を流してもその後には、ちゃんと笑って花を咲かせるから…』
そうお前に約束した。
お前らって、約束すんのが好きだよな…
仕方ねぇ、俺からも一つ約束してやるよ。
紫と紫龍は俺が守ってやる。
二人の笑顔を全力で守ってやる。
そんで、紫より絶対長生きしてやる。
紫がシワシワの婆さんになって、満足した面して旅立つのを見届けて、お前の所に送ってやる。
それが俺からお前への、約束だ。
それまでもう少し…後五、六十年そこで輝いて待ってろな。
何だよ…待ち時間が長げぇって?
いいだろ、お前は今まで散々紫を待たせてきたんだ。
今度はお前が待つ番。
そんくらい我慢しろ。
「大樹、紫龍寝ちゃった…」
「あ?
ったく…寝ないってごねてたくせに、やっぱ眠かったんじゃねーか」
「風も涼しいし、星空を見ていると、頭空っぽになるから眠たくなるよね」
「家入るか。
お前も眠れそうなら寝とけ。
今日も忙しいぞ」
紫龍をそっと抱き上げ、紫と戻る途中、ふと呼ばれた気がして足を止めた。
畑のライトは消したから、振り返った所で闇しかねぇ……
いや……
「大樹?どうしたの?」
「…何でもねぇ……」
濃い闇の中、俺の目と意識に入って来たのは、アンタレスだ。
南西の低い位置に輝く、蠍の心臓アンタレス。
もう少しで丘の向こうに沈もうとしているその星が、一瞬だけ強く瞬いた気がした。
赤く明るく瞬いて…
「君らしい約束だね ハハッ!」
そう言って笑う、あいつの声が聴こえた気がした。