ラベンダーと星空の約束+α
白紙に描かれた物語

 

 ◇◇◇


[side紫龍 ‐10歳 夏‐]



学校から帰り
「ただいまー」
と玄関を開けても、誰もいない。



これは俺の当たり前の日常。

父さんは畑で、母さん達は“ファーム月岡”の店の中だ。



ランドセルを置き家を出ると、30メートル先にある店舗に向かった。



今日も晴天で、午後3時過ぎの今も、陽射しが強い。


すれ違う観光客の人達が
「北海道って意外と暑いね…」
と会話している声が聴こえてきた。



店舗を陽射しから守るようにそびえ立つ、5本の柏の木の周囲には、

木陰でラベンダー色のソフトクリームを食べながら、休憩する人達で賑わっている。



その横を通り過ぎ、店の裏口から調理場に入ると、余り意味のない扇風機がムワッとした熱気を巡回させていた。




「紫龍、お帰り。

〇〇くーん!A卓オムカレーポテトフライ上がりー!」




忙しそうに働く母さんは
「ちょっと待ってね」
と言うと、俺のオヤツ用に焼きそばを炒め始めた。



いつものように邪魔にならない位置で、逆さまにしたビールケースに座って出来上がりを待つ。




「学校どうだった?」



「別にフツー」



「フツーって何よ。
そのフツーが何なのか、教えてよ」



「日直やって勉強して、給食食べて、全校生徒でドッチボールした」



「ふーん。ドッチボールいいねー。楽しそう。

留美ちゃんと同じチームだったの?」



「………」





母さんは焼きそばを炒める手は休めずに、俺に意味ありげな視線を向ける。



また留美の話しかよ…
嫌な気持ちがした。



留美って言う奴は、一つ年下の女。



母さんが特別に名前を出す理由は、2月のバレンタインに留美からチョコレートを貰ったから。



生徒数が少なく、良く言えば平和で、悪く言えばつまらない学校だから、

小さな出来事がすぐに学校中…いや町中に知れ渡るし、友達と喧嘩したくらいで職員会議だ。



だから留美が俺にバレンタインチョコをくれたのは、話題に事欠いていた大人達の、格好の餌食となった。



< 85 / 161 >

この作品をシェア

pagetop