ラベンダーと星空の約束+α
その後は、空がオレンジ色を帯び始めるまで畑の中で遊び、少しだけ除草も手伝った。
しょうゆバッタを追い掛けていると、少し離れた所にいる父さんが俺を呼んだ。
「紫龍こっち来い。これ見てみろ」
父さんは“キタアカリ”と言う品種の、ジャガイモの葉っぱの間を指差している。
父さんの側に駆け寄り指差すその箇所を見ると、花の落ちた後に小さな緑色の丸い実が付いていた。
「ミニトマト?
ジャガイモなのに何で?」
「トマトじゃねぇ。それはジャガイモの実だ。
珍しいだろ?」
「実?」
ジャガイモに実がなるなんて、聞いた事も見た事もなかった。
種芋を植えると土の中にゴロゴロと子芋が増える。
それがジャガイモなのに
“実”って…何?
不思議がる俺に、父さんは説明してくれる。
「メークインや男爵は花の後に実は成らねぇが、キタアカリはたまにこんな実を付けるんだ。
この実の中には種が入ってる。
それを撒くと、他の植物と同じでちゃんと芽が出てジャガイモが育つ。
種から育てても、売り物になるイモは出来ねぇけどな」
「へぇー…知らなかった」
小指の先程の小さな青い実は、三倍程の大きさになって熟すと、黄色くなるらしい。
初めて見るジャガイモの実に興味津々な俺を見て、父さんは笑っていた。
真っ黒に日焼けした顔に、白い歯が目立つ。
「見れば見るほど、トマトみたい…不思議」
「別に不思議じゃねぇよ。
トマトもジャガイモも同じナス科の植物だ。
花の形も似てんだろ?」
「トマトとイモが、ナス科なの?」
「おう。ナス目ナス科ナス属だ」
「アハハ!ナス尽くしだね!変なの!」
父さんはトマトの和名が“赤ナス”だって言う事も教えてくれた。
父さんは色んな事を教えてくれる。
学校の勉強は…多分俺の方が数倍できるけど、
教科書には書いていない知識を、教えてくれるんだ。
だからこの頃野菜に関する知識が増えて、農業が面白いと感じるようになってきた。