ラベンダーと星空の約束+α
父さんは俺を肩車したまま、自転車も押して、農道を歩いて行く。
陽が大分西に傾いていた。
夕日に照らされ肩車されている俺の影が、面白いほど長く、ジャガイモ畑に伸びていた。
ファーム月岡が多忙を極める観光シーズン、
保育園に通う妹達の送り迎えは、父さんの役目だ。
肩から下ろされた後、祖父ちゃん家の横に止めてある、白いワゴン車の助手席に乗り込んだ。
父さんの隣の席は俺の指定席。
そんな些細(ササイ)な事が、何だか嬉しい。
後部席にはチャイルドシートが二つセットされている。
その席は、5歳の双子の妹“彩香”と“風香”の席。
妹達がまだ赤ちゃんの頃、その寝顔を見ながら母さんがしみじみこう言っていた。
「私に似ていて良かった…
女の子なのに、大樹に似ていたらどうしようって、生まれてくるまで心配だったよ…」
「そうだな…俺に似てなくて良かった」
素直に同意していた父さんが可笑しかったけど、
あの時は似てなくて良かったなんて、変な事を言うと思ったんだ。
でも今は俺もそう思う。
父さんの顔は俺は好きだよ。
男らしくてカッコイイとも思う。
だけど目付きが鋭いし、女の子向きじゃないよな…
妹達が母さん似なのは、見た目だけじゃなく性格も。
これには少し困っている。
「お兄ちゃんお返事は?」
「コラ!“うるせー”はダメ!
“めんどくせー”もダメ!お口悪い!」
妹達が帰って来ると、母さんが三人に増えたみたいで大変なんだよな…
二つ並んだチャイルドシートを見ながらそんな事を考え、
そして冬には、もう一つベビー用のチャイルドシートが増えるんだなって思ってた。
母さんの腹の中には4人目の子供がいる。
まだ男か女か性別は分からないけど、俺は弟が欲しい。
これ以上、小さな母さんが増えるのは勘弁だ。
妹達を迎えに行く20分のドライブコース。
広大な緑の大地をどこまでも真っ直ぐに伸びる“花人街道”は、果てがないみたいに見える。
夕陽に包まれる車内で、半分開けた窓から気持ちの良い風を楽しむ。
野菜畑の緑の匂い…
ラベンダーの優しい香り…
夕暮れの夏の匂い……
父さんと二人切りの居心地のいい空間で、男二人の平和な時間を楽しんでいた。
【白紙に描かれた紫龍10歳夏の物語‐終‐】