ラベンダーと星空の約束+α
父さんは今、スキー場でスキー教室のアルバイトの最中だ。
俺も一緒に行く日もあるけど、今日みたいに昼出夜間までの日は、連れて行ってくれない。
冬休みだし、別に帰りが遅くなったっていいだろって言ったけど、
夜のゲレンデに俺一人うろつかせる訳に行かないと言われてしまった。
アイスクリームを食べ終えて、スプーンを口にくわえたまま暖炉の前で寝そべった。
それをちらりと見た母さんが、シール貼りの手を止めずに俺に聞く。
「退屈そうだね。冬休みの宿題は?」
「そんなの冬休みの初日に全部終わったよ。
あんなの簡単過ぎて、暇潰しにもならない」
「ふーん、さすが流星と私の子。
じゃあ一緒にシール貼りやる?」
「…見た感じつまんなそうだからやらない」
アイスクリーム用のスプーンを流し台に放り込んで、階段の方へと歩いて行く。
「書斎に行くの?」
「ん、本読んで暇つぶしする」
俺がそう言うと、母さんは目を細めて嬉しそうな顔をした。
書斎に入ると、読みかけの本を書棚から引っ張り出し、デスクチェアーに座る。
肘掛け背もたれ付き布張りのこの椅子は、日焼けして古めかしく見える。
だけどゆったりした座り心地は快適で、なんだか落ち着く。
部屋の真ん中に構える木のデスク上には、事務的なライトとペン立て、それからノートパソコン。
これらの品だけじゃなく、この部屋の物全てが、亡くなった俺の実父の持ち物だ。
机上には写真立ても置いてある。
俺とそっくりな顔した父親が、いつもと変わらぬ優しい笑顔を向けていた。
写真を見つめながら、無意識に自分の髪の毛を触る。
この茶色い髪の色も、目の色も、笑窪の位置も…
見れば見る程そっくりな顔。
性格はどうだろう?
写真の父さんて、どんな人だったのかな……
写真でしか知らない実父に関心を持ち始めたのは、つい最近の事。
大地が生まれてからだ。
それまでは「流星はね…」なんて母さんが想い出話しを始めると、
なんとなく話題を逸らしてみたり、時にはその場から逃げた事もあった。