近い未来の話
本編
よくあるサークルの飲み会に、遅れて来たあたしと、そんなあたしに気付いた曽根田。
あたしは昔から影が薄いから、座敷席の隅っこでひとり、膝を抱えてたばこを蒸かす曽根田くらいしか、そのとき、あたしに気付いた者はいなかった。
それが、あたしたちが友達になったきっかけだ。
曽根田も、元々友達が多いほうではなかったし、サークル内で唯一の友達であった山下くんは早々にカノジョを作り、あっさりと曽根田は棄てられてしまった。
そんな曽根田のことを気の毒に思いながらも、あたしは前々から、彼のことが少しだけ気になっていた。
顔がどことなく、好きなバンドのベーシストに似ているところとか、いつも眠そうな目をして何を考えてるんだか分からないところとか。
気が付けば目で追っているような、そんな、不思議な存在だった。
だから、どこかで、いつか友達になるような気はしていた。
気が合うんじゃないかというような、なんの根拠もない予感もあった。
ださいかもだけど、なんていうか、インスピレーションってやつだ。
第一印象から決めていました。的な。
じっさい、話が合ったことなんて一度もないし、髪を伸ばしてからは例のベーシストとはまるで別人のようなビジュアルになってしまったけれど。
でも不思議とあたしたちは、サークル内のはぐれもん同士、なんとなーく、うまくやってきた。
色んな現実から、目を背けながら。
そんなある日の今日。
いつものサークルの飲み会にて、事件は起きた。
事の発端は曽根田の友達の山下くんのカノジョのアキちゃんが、うっかり口を滑らせてしまったことにある。
「そういえばこないだ曽根田くんとサシで飲んだときにさー・・・あ。」
場の空気が一瞬にして凍り付いた。
あたしは、アキちゃんのこういう、馬鹿でだらしないところが好きになれないのだと、ひとり、ハイボールを飲み干した。
びっくりするほどあたしは、平然としていた。
アキちゃんと曽根田が飲んだのか。
二人きりで。
そっか。
へぇ・・・。
どんな話をしたんだろう。
曽根田は、どれくらい飲んだんだろうか。
ふだんはあんまり飲まないけど。
ていうかあたしですら、二人きりで飲んだことなんか、一度もないけど。
アキちゃんの前では、どんな話し方をするんだろう。
笑ったりも、するのかな。
ああ、だめだ。
やっぱりちょっと、動揺してるのかもしれない。
二人が一緒に飲みに行ったところを、よくよく想像してみたら、やっぱり、落ち着いてなんていられなかった。
影の薄いあたしは誰に気付かれることもなく、静かに席を立つ。
今まで、こんなにも曽根田のことを考えたことがあっただろうか。
いやだ。いやだ。いやだ。
いろんなものから逃げるようにあたしは、トイレのドアを押した。