近い未来の話
かえって下がったテンションのまま、トイレを出ると、先程話題の中心にいた人物が狭い通路の壁に寄り掛かって立っていた。
その姿は、なんだか妙に、さみしそうに見える。
相変わらずの猫背が、そう感じさせるのだろう。
口の端には、僅かに血が滲んでいる。
「・・・曽根田」
「あ、やっぱりここにいた」
なんだそれ。
あたしのこと、待ってたのかよ。
こんなとこで。
誰にも気付かれてないと思ってたのに。
なんで、なんで、いつも曽根田には見つかってしまうんだろう。
やっぱり、曽根田の考えてること、曽根田のぜんぶ、あたしには理解できない。
「その傷、どうしたの?」
「殴られた」
「・・・へぇ、まぁ、だめだよ、友達の彼女に手出しちゃ」
「おまえ、それ、本気で言ってんの」
「だってさ、どんだけ飲んだのよ、その日」
「んー」
「忘れるくらい飲んだんでしょ、なら、もしかして、やってしまったかもしれないでしょうが」
ああ、自分で言ってて、また辛くなってきた。
「とにかく、あんたがそんな低能な男だとは思わなかったよ、もう金輪際あたしに話しかけてこないでください、さようなら」
「おい」
「話しかけんなって言ってんでしょ・・・」
「・・・・・・」
「どうせ、アキちゃんと、したくせにさ・・・」
言いながら、あたしはなんて嫌なやつなんだろうと思った。
でも、曽根田があたし以外の女の子とも、普通に二人きりで居られるんだって思うと、やっぱりちょっと、痛いんだ。
こんなのは完全に八つ当たりなんだけど、分かってるんだけど、むしゃくしゃするんだ。
「・・・したら、何」
「したの?」
「覚えてないけど、おまえには関係ない」
なにその、突き放すみたいな言い方。
関係ないこと、ないでしょ・・・
むかつく。
「ほんと最低だね、あたしももう、あんたの友達やめるから」
「それは、だめだよ」
「は?」
「おまえと俺が友達やめたら、おまえを見つけられるやつがいなくなるだろ」
「・・・・・・・・」
ああ。
もう、わけがわからない。
お前には関係ないって突き放したかと思えば、急にそんなこと言い出して。
ほんと、何様だよ。
第一、曽根田がすぐにあたしを見つけてしまうのだってあたしが望んだことじゃない。
曽根田が勝手にあたしを見つけて、勝手に構ってくるんじゃないか。
曽根田って、いっつもそうだ。
自分勝手で、ずるい。
ほんとうはとても人の気持ちに鈍感で、人付き合いが下手くそで、不器用なくせに、こういう、言い合いになったときに限って、あたしが困るようなことを平気でさらっと口にする。
いつもと何も変わらない、その無表情で、淡々と。