近い未来の話
「・・・誰が、いつ、あんたに見つけてほしいなんて頼んだ?」
曽根田はおかしいよ。
今まであたしが何してようがそんなの構う人なんて、誰もいなかったのに。
あたしだって、曽根田に出会うまでは、そんなの気にせず、生きてきたっていうのにさ。
なんであのとき、急に声かけてきたり、したんだよ・・・・
「嫌でもおまえが視界に入るんだから、仕方ないだろ」
・・・ほら、また。
そんなことを、何にも考えてないような顔でさらっと言ってのける。
そんなの、初めて言われたし。
嘘に決まってる。
そうやって言えば、あたしの機嫌が直るとでも思っているんだ。きっと。
「・・・むかつく」
「は」
「曽根田はさ、アキちゃんのことが好きなんじゃないの?それなのに、あたしにそんなこと言っていいわけ?どうせ、あれでしょ?あたしの機嫌をとるために・・・」
「言ってる意味が、分かんないんだけど」
あたしはなんとなく、曽根田の顔を見るのも、自分の顔を見られるのも嫌で、俯いた。
顔を見なければ、言いたいこと、ぜんぶ言えるような気がしたからかもしれない。
でも、だめだった。
曽根田の声が、あたしの言葉を遮った。
その声に、怒りのような、呆れのような感情がこもっているように感じられて、余計にあたしは顔を上げるのが怖くなった。
でもそれは、あたしが曽根田の表情を見ていないからこそ膨らむ想像なのかもしれない。
顔を上げれば、曽根田は案外いつも通り無表情でそこにいて、長い前髪の隙間から僅かに覗いた眠そうな目で、あたしをぼんやり見ているのかもしれない。
あたしはきっと、曽根田に文句を言うことで、曽根田を最低なやつにすることで、現実から逃げていたのだ。
そのほうが、曽根田を嫌いでいたほうが、ずっと楽だと思ったから。
今みたいに、曽根田の気持ちを無視して、自分の気持ちから目を背けていたほうが、嫌な目に合わずに済む、から。
「俺はおまえの機嫌のとり方なんて知らないし、知ってたら、もうとっくにやってるし、何で今、あいつの名前が出てくるのかも分からないし」
「・・・・・・」
「昔からそうなんだ、他人の気持ちが分からない、無意識のうちに誰かを怒らせたり、悲しませたりしてる、自分の何がいけないのか、指摘してくれる人もいなかったから直すことすらできないまま、気付いたらここまできてた」
そんなの、もう、とっくに知ってるけど。
「でも、それももう仕方ないことだって諦めてた、べつにそこまで、誰かに認められたいとか好かれたいと思ったこともなかったから」
「・・・・・・・・・」
「だけど今は・・・何でか、おまえが俺の顔を見ようとしない理由とか、知らないままにしておくのが、気持ち悪くて仕方ない」
その不器用さも含めて、曽根田はやっぱり、ずるい。と思う。
自分の気持ちにすら鈍感なんて。
まぁ、それに関してはあたしも、曽根田のこと馬鹿にできないけどさ。