近い未来の話






曽根田の言葉に、ちょっとだけ、心臓のあたりがくすぐったくなった。




「なに恥ずかしいこと言っちゃってんの?酔ってんの?」


「酔ってない」


「それ、後々『あの時は酔ってたから・・』っていう言い訳とか、通用しないやつだって、分かってる?」


「なんで言い訳なんて、する必要がある」



天然か。
ていうか、恥ずかしいとかいう感情、持ち合わせてないのかよ。
言われたこっちが恥ずかしくなってくるぐらいだ。

ああ、なんか・・・
曽根田といると、自分が馬鹿らしく思えてくる。
曽根田は、あたしの半分も物事を考えてないんじゃないだろうか。
無駄なストレスとか溜まらなそうで羨ましい。



「曽根田といるとさ、恥ずかしいって思うことが恥ずかしいことのように感じられるよね、ほんと」


「はは、なにそれ」


「なに笑ってるの?」


「笑ってない」



顔を上げると、薄暗い間接照明に照らされた無表情の曽根田がいた。
無表情の曽根田は、口元に拳を押し当てている。
心なしか、不思議と、笑いを堪えているようにも見えて、彼がさっき笑い声めいたものを上げたのを指摘してしまったことと、その瞬間の表情を見逃してしまったことをちょっとだけ、後悔した。



「笑うことこそ、恥ずかしいことじゃないと思うんだけどなー」


「だから笑ってないって、ふは」


「笑ってんじゃんよ、変なの」


「なぁ、」


「ん?」


「とりあえず、一緒に抜けない、俺、おまえと二人きりになりたい」



まぁ、今だって二人きりといえば二人きりだけど。

じゃあさ、ついでに付き合っちゃおうか、あたしたち。

言うか悩んで、呑み込んで、何も言わず頷いた。

間接照明に照らされた曽根田は、口元にあった手で、あたしの腕を掴んで、拾い上げるように、自分のもとに引き寄せた。
足が、一歩、二歩と動いて、距離が急に近くなる。
見上げた曽根田のカオは、あたしの手を見下ろしていて、「小さい手」と呟いた。
曽根田の手は、細いだけと思っていたその手は、案外骨ばっていて、しっかりと、男の人の手だった。

なんだか妙に、どきどきしている自分に気付いて、唾を飲み込もうとしたけれど、その距離の近さから、ごくりという音が聞こえたら嫌だなぁと、またあたしは余計なことを考える。
恥ずかしかった。
余計なことなど考えてない人の前で、余計なことばかり考えてしまう自分が。








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