近い未来の話
曽根田・・・・?
ここ、店の中だよ。
今はあたしたちしかいないけど、いつ、どのタイミングで誰に見られるかなんて、分からない場所なんだよ。
もし誰かに見られでもしたら・・・
「あ、の、曽根田・・・一旦、出よっか、ここじゃ、ちょっとさ・・・」
「・・・・・・・」
「曽根田?」
曽根田が、目を覆っていた手を退けた頃、今度はあたしの視界が真っ暗になっていた。
あたしより、ずっとずっと大きな曽根田の体が、あたしの体を包み込んでいる。
胸に顔を埋めると、ほんわりと、曽根田がいつも吸ってる、たばこの匂いがした。
温かくて、このまま眠りに落ちてしまいそうなほど、心地よい香り。
背中に回された手が、優しく、あたしを抱き締めている。
曽根田は、こんなふうに抱き締めるんだ。
今まで、想像したこともなかった。
まさか自分が、曽根田に抱き締められる日が来るなんて。
「・・・ねぇ、曽根田」
「ん」
「だれか、来ちゃうよ」
「・・・しらない」
知らないって。
そんなこと言う、曽根田のことをあたしは知らない。
「曽根田、やっぱり酔ってるでしょ?」
「本当に、酔ってないよ」
「そう、ですか」
耳元で聞こえた曽根田の声は真剣そのもので、あたしに疑う余地も与えてくれない。
コツッ
カツッ
コツッ
曽根田の、ちいさなちいさな呼吸音と、店内に流れるジャズの音色の合間に、ヒールが床を蹴るような音が、確かに聞こえた。
息を潜めて、だれか来た、と口を開きかけた時、すぐ背後から声がした。
どうやらもう、遅かったようだ。
「・・・あ、曽根田、くん」
この声は。
アキちゃん・・・・!?