近い未来の話







息を飲んで、曽根田にしがみつくと、心なしか彼も、抱き締める手の力をすこしだけ強めた。
アキちゃんはアキちゃんで酔っ払っているのか、「さっきはごめんね」と呂律の回らない口で繰り返している。
トイレに入るなら、早く入ればいいものを、一向にこの場から動く気配がない。



「ほんとごめんね、曽根田くん」


「もう、大丈夫ですから」


「ほんとに?」


「はい、だから、早くどっか行ってください、邪魔です」



そうだった。
曽根田は、そういうやつだった。



ヒールの音が遠ざかる。



あたしは内心、アキちゃんの顔が見えなくて良かった、と思った。
それに、顔を見られなくて良かった、とも思った。
あたしは影が薄いから、きっと、後々突っ込まれるようなこともないだろう。



「・・・・びっくりしたー、けど、よかったー」


「おまえ、ちゃんと息してた」


「止めてた、かも」


「やっぱり」


「ねぇ、そろそろ、出ない?」


「あぁ、うん」



曽根田の手が離れ、あたしは乱れた髪を手櫛で整えながら、体の向きを変える。
まだ、曽根田の手の感覚が身体に残っていて、くすぐったい。
頭の中が、酔っぱらってるみたいに、ふわふわしてる。
不思議。




「なぁ、」


「ん?」


「若菜さ、その髪型、いいね」


「・・・・え!?」



否。
今ので、一気に目が覚めた。

髪切ったこと、気付いてたんだ。
それに若菜って、初めて名前で呼ばれたんですけど・・・!







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