続・雨の日は、先生と

近付く影

目が覚めて、現実に戻される。

今日も、先生は出勤だ。
春休みといっても、先生はのんびりしていられるわけではないらしい。

そうだよね。

生徒として先生を見ているときは知らなかったけれど。
先生って、本当にたくさん仕事があるんだ。
今は、新学期の準備に追われている。

授業するだけが先生じゃないよね。

だとしたら、放課後に補習の時間を割いてくれた天野先生は、きっとどこかで無理をしていたはずで。

それなのに、何も知らずに無邪気にはしゃいでいた自分が、恥ずかしく思える。

生徒なんて、みんなそうなのかもしれないけど。



朝ごはんを食べながら、またしょげている私に、先生は言った。



「唯、ところで昨日何があったの?」


「何でもないです。」


「意地っ張り。」



そう言って、先生は笑う。

私も、つられてちょっと笑う。



「唯、何も不安に思うことはないよ。ここは君の居場所だし、何があっても私は君を手放すようなことはしない。」


「はい。」



すっと胸が楽になって、昨日よりも上手く呼吸ができるようになった気がした。

そう、私はずっとそんなことを思っていたんだ。


もちろん、あの女の人が怖いけれど、それ以上に。

先生の彼女だって、胸を張って言えなかった自分が嫌だった。

ここを、仮の住まいのように感じてしまう自分が、嫌だったから―――



「陽さん、」


「ん?」


「あの、」


「うん。」



優しく微笑んで、私の言葉を待ってくれる先生。



「私、陽さんの、何ですか?その……肩書が、欲しくて。」


「そんなことを悩んでたの?」



先生は笑って、私の目を真っ直ぐに見つめながら言った。



「唯は私の彼女です。」



と。



思わずぶわっ、と涙を流した私を、先生は優しく抱きしめる。



「ばか。ひとりで何でも抱え込もうとしないの。」



先生にふわっと頭を撫でられると、もう何もかもどうでもよくなってしまう。

思わずすべて話してしまいそうになる。


だけど、だけど。

もうちょっと我慢しよう。

あの人が誰か、分かってからでも遅くない。


先生を傷つける事実は、私が黙っておけばいい。

それで、先生が笑っていられるなら。



「じゃあ、行ってきます。」


「行ってらっしゃい!」



やっと明るく笑えた私を、先生は眩しげな顔で見つめた。
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