続・雨の日は、先生と
ピンポーン。


――また始まった。



ピンポーン。



「唯?ちょっといいか?」


「あ、陽さん!」



急いで玄関を開ける。



「すまない。ちょっと忘れ物を、……あれ?電話鳴ってる?」


「あ、そ、そうですね。」


「出るよ。」



電話の方向に歩いていく先生。

ああ、出ちゃだめだ。

出たら分かってしまう。


私は、なす術もなく先生をみつめていた。



「もしもし。天野です。……あー、カナちゃんか。久しぶりだね。どうしたの?」



―――カナちゃん?



それが、私を追い詰める人物の名前なのだろうか。

それに、先生とその人は、一体どういう関係なのだろう。


先生は、電話の向こうにいる人に向かって、にこにこ笑って見せる。

その優しい声で、「どうしたの?」なんて言う。

私だけのものにしたい、その声で。



「最近連絡がないから、どうしたのか心配してたんだよ。また、お茶でもしよう。」



―――お茶でも……



私、こんなに心が狭かったっけ。

こんなに、先生を自分だけのものにしたいって思ってたっけ。

先生を好きでいられたら、それでいいのではなかったのだろうか。


でも、今先生と話している人が、もしも本当に私を追い詰めているとして。

先生とその人の間には、私と先生の間にあるものより、もっと強い何かがある気がする。

私が先生に会うずっと前から、続いているであろう何か。

私がどんなに頑張っても、追いつけないもの。

共に過ごした、月日。


でなければ、先生がこんなふうに優しくするはずはない。



「じゃあ、ごめんねカナちゃん。今から仕事だから。もう行かないと。……ああ、分かってるよ。じゃあ。」



先生が静かに受話器を置く。



「どなた、ですか?」



先生は、はっとしたような顔で笑顔を引っ込めた。

あ、今。

先生は、私のこと忘れて話していたんだ。



「知り合いだよ。」


「幼馴染とか?」


「いや、そうじゃないんだ。……じゃあ、もう行くよ。」



歯切れの悪くなった先生は、最後までカナちゃんの正体を明かしてくれなかった。

それが、なんだかすごく悲しく思えた。
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