続・雨の日は、先生と
先生のいない生活に慣れようと、私はすぐに掃除を始めた。
ここは先生の家なのだから。
先生は、必ずここに帰ってくる。
だから、私は揺らがないでいられる。
「ピンポーン。」
「……はーい?」
カナさんの一件から、用心深くなった私。
すぐには開けないで、覗き穴からよく確認する。
「って、え!!!」
焦ってドアを大きく開ける。
「お母さん!」
「唯、元気にしてた?」
相変わらず自由な母は、私がいなくなって清々していると思っていたのに。
気にかけて来てくれるなんて。
本当に変わったね、お母さん。
ううん、変わったんじゃない。
これが本来のお母さんなんだよね―――
「先生はいるの?」
「いないよ。」
「え?だって、今日は日曜日でしょ?」
「そうだけど……。」
「出勤?」
「えと、」
何と言ったらいいのか分からなくて口ごもる。
消えたなんて言ったら、母はなんて言うだろう。
「なに、これ。」
「あっ!」
母は素早くテーブルの上のメモを取り上げた。
「……どういうこと?」
「その、それはっ、」
「唯、先生に大事にされてないの?」
「違う!違うよ、お母さん!」
慌てて否定しても、母は信じなかった。
「唯、これは浮気よ。先生、他に女がいるのよ。」
「そんなことないっ!」
「それならどこに行くって言うの?唯よりも会いたい人がいるってことじゃないの?」
「お母さん……。」
「こんなこと、普通しないよ。唯は先生に騙されてんだよ。こんなの、フラれたも同然じゃない。」
その母の言葉に、ふと私の心に迷いが生じてしまった。
母の言葉が正しいなんていう証拠、どこにもない。
だけど、私の思っていることが正しい証拠も、同じようにないんだ。
先生の心は、先生にしか分からない―――
現に、先生は私ではない何かを求めて、消えてしまったのは確かなのだから。
「……そうなの、かな?」
「そうよ。ほら、早く支度して。」
「え?」
「帰るのよ!」
「帰るって、どこに?」
「家によ!」
「だって。私、待ってないと!」
「だめよ、そんなことをして男を甘やかしたら。唯は怒っていいの。」
そう言って、私の荷物をまとめ始める母。
「待って、待って、お母さん。……それでも私、陽さんのこと、信じてるの。」
「だから、唯!いいのよ、信じているならそれでもいいの。でも、一度けじめをつけておかないとダメ。」
母の言い分も何となく分かる。
それほどまでに、私を大事に思ってくれることが、今は奇跡のように嬉しい。
でも、私は待つって決めたのに。
ここで、先生を待つって。
「大丈夫よ、唯。あんたは先生のこと信じてるんでしょ?それなら、先生はきっと迎えに来るから。それまで、うちにいなさい。」
「……うん。」
確かに、確かにそうだ。
先生を試すわけではないけれど。
本当に愛しているなら、きっと。
どこにいたって、先生は見つけてくれる。
そう思った―――
ここは先生の家なのだから。
先生は、必ずここに帰ってくる。
だから、私は揺らがないでいられる。
「ピンポーン。」
「……はーい?」
カナさんの一件から、用心深くなった私。
すぐには開けないで、覗き穴からよく確認する。
「って、え!!!」
焦ってドアを大きく開ける。
「お母さん!」
「唯、元気にしてた?」
相変わらず自由な母は、私がいなくなって清々していると思っていたのに。
気にかけて来てくれるなんて。
本当に変わったね、お母さん。
ううん、変わったんじゃない。
これが本来のお母さんなんだよね―――
「先生はいるの?」
「いないよ。」
「え?だって、今日は日曜日でしょ?」
「そうだけど……。」
「出勤?」
「えと、」
何と言ったらいいのか分からなくて口ごもる。
消えたなんて言ったら、母はなんて言うだろう。
「なに、これ。」
「あっ!」
母は素早くテーブルの上のメモを取り上げた。
「……どういうこと?」
「その、それはっ、」
「唯、先生に大事にされてないの?」
「違う!違うよ、お母さん!」
慌てて否定しても、母は信じなかった。
「唯、これは浮気よ。先生、他に女がいるのよ。」
「そんなことないっ!」
「それならどこに行くって言うの?唯よりも会いたい人がいるってことじゃないの?」
「お母さん……。」
「こんなこと、普通しないよ。唯は先生に騙されてんだよ。こんなの、フラれたも同然じゃない。」
その母の言葉に、ふと私の心に迷いが生じてしまった。
母の言葉が正しいなんていう証拠、どこにもない。
だけど、私の思っていることが正しい証拠も、同じようにないんだ。
先生の心は、先生にしか分からない―――
現に、先生は私ではない何かを求めて、消えてしまったのは確かなのだから。
「……そうなの、かな?」
「そうよ。ほら、早く支度して。」
「え?」
「帰るのよ!」
「帰るって、どこに?」
「家によ!」
「だって。私、待ってないと!」
「だめよ、そんなことをして男を甘やかしたら。唯は怒っていいの。」
そう言って、私の荷物をまとめ始める母。
「待って、待って、お母さん。……それでも私、陽さんのこと、信じてるの。」
「だから、唯!いいのよ、信じているならそれでもいいの。でも、一度けじめをつけておかないとダメ。」
母の言い分も何となく分かる。
それほどまでに、私を大事に思ってくれることが、今は奇跡のように嬉しい。
でも、私は待つって決めたのに。
ここで、先生を待つって。
「大丈夫よ、唯。あんたは先生のこと信じてるんでしょ?それなら、先生はきっと迎えに来るから。それまで、うちにいなさい。」
「……うん。」
確かに、確かにそうだ。
先生を試すわけではないけれど。
本当に愛しているなら、きっと。
どこにいたって、先生は見つけてくれる。
そう思った―――