続・雨の日は、先生と
大きめのカバンひとつで、先生の家に来た私。
本当に、驚くくらい持っていきたいものなんてなかった。


ただ、先生がいれば、それでよかった。


こんなにも、人を愛することはもうないだろう。


高校を卒業したばかりの私の、最初で最後の恋。
もしもこの先、先生に捨てられたとしても。
もう、他の誰かを好きになるなんてことは、考えられない。



「よろしくお願いします。」



荷物を持って、玄関先でぺこりと頭を下げた。



「こちらこそ。よろしく。」



向き直った先生は、同じように頭を下げる。



「唯、約束して。」


「はい?」


「ここから先、私たちはもう先生と生徒じゃない。」



真面目な顔で言う先生。

私はきょとんとしてしまう。



「私だって、まだ君のことを、笹森さんって呼びそうになる。敬語の方がしっくりくるって思うことも。」


「……はい。」


「でも、努力するから。だから、唯もそうしてほしい。」


「え?」


「先生と生徒の関係は、終わりにしよう、唯。君が私のことを先生と思っている以上、私が優位な立場になってしまうだろう?」



先生が言っていること、何となくわかる。

フラットな関係でいたい、って。

そういうことなんだろう。



「だから、私を困らせてほしいし、わがままを言ってほしい。聞き分けのいい笹森さんじゃなくていい。」



優しい優しい笑みを浮かべて、先生が言う。

その言葉に、胸がきゅんとときめいた。



「はい。陽さん。」


「うん。」



玄関からリビングへと歩いていく。

私の幸せ。

心一杯の幸せは、ここから始まる。

すべては、ここにあるんだ。



「ニャー。」


「たま!久しぶり!」



私の足元に甘えてすり寄ってくるたま。

懐かしいあの日を思い出す。



「たまは唯が大好きだから。」



目を細める先生が、とてもとても可愛らしく見えたのは秘密。
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