短編集
那雄は私のタックルが当たった腕を押さえてる。

「いってぇ〜菜代!」
「菜代ちゃんをナメんなよ!」
「そんなんだから彼氏できねぇんだよ!」
「うるさい!泣き虫」
「昔の事を掘り出すな!」
「なおちゃんは泣き虫だもんね〜?」
私が那雄の顔をのぞき込むと、那雄は顔をそらした。
「……」

あれ?無言。言い過ぎた?でも、いっつも言ってる事だし……。

「ちょっと那雄。元気無いぞ〜?」
「泣き虫じゃない……」
「もしかして……スネてる?」

思わず笑った。外見は変わっても、中身はやっぱり変わらないみたい。
 昔と変わらず可愛い性格してるよ。
「あははっ、やっぱ変わんない……」
お腹を抱えて笑ってると、陰が落ちてきた。曇ったかと思って上を見ると、那雄が私を見下ろすみたいに立ってる。

「な……なによ」

ちょっと後ずさり。
だって……那雄の顔、今までに見たこと無い表情なんだもん。
それに……目をそらせないんだ。

その時、ナイスタイミングでチャイムが鳴って、私は目をそらすと、那雄に背を向けた。

「さ、戻りますか」

振り返ると腕を引っ張られて……口に何か当たって……那雄の顔が近い。

これって……俗に言う……キス?
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