短編集
「ま、まっさかー。冗談上手いね」
「冗談なんかじゃないの」

 何かが崩れた。
 俺の好きだった華世ちゃん像が見事に消え去った。

「夏弥ちゃんはあの性格だから男の子と仲が良いの。夏弥ちゃんの親友は私だけ」
 華世ちゃんは微笑むと俺に近づいてきた。
 なんか……おかしい気がする。

「葉月君、私のこと好きなんでしょ?だったら……」
 華世ちゃんは予想外な行動に出た。
 制服のリボンとボタンを外して俺に抱きついてきたんだ。

 放課後の誰もいない教室に男と女が二人っきり。しかも、抱き合っていて女の子は制服のボタンを外してるなんて……なかなか無いシチュエーション。
 健全な男子高校生の俺。
 でも……さすがに……。

「葉月君……夏弥ちゃんから離れて?夏弥ちゃんの親友は私だけでいいの」

 夏弥から離れる?
 それは……考えられない。あれだけ気が合うのは男でも居ない。

「それは……」
「やっぱりダメだよね」
 俺が何か言おうとした時、廊下で夏弥の声がした。
 よく聞こえなかったけど、あの音と声からして転んだんだろう。

 俺が少し体を動かすと、華世ちゃんは俺から離れてボタンを外したままでドアまで走って行った。
「ちょっ!」
「私と葉月君……どっちの方が夏弥ちゃんに信じてもらえてるんだろうね?」
 華世ちゃんはそのまま廊下へ飛び出して行った。

「華世!」
 夏弥の声がした。

 どっちが信じてもらえてるか……?正直、自信はない。
 夏弥は俺より華世ちゃんの方を信じる。

 教室にいる俺を見た夏弥は何とも言えない表情をしていた。
 驚いて……失望したかのような。
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