短編集
「葉月!」

 呼ばれても俺は振り向けなかった。何も言わずに通り過ぎると、早足で昇降口に向かう。
 夏弥に本当のことを言って、もし俺の言葉を信じてくれたとしたら……夏弥は、絶対に傷付く。
 華世ちゃんを大切に思っているんだからさ。

 傷を浅くするには俺が……。
 そんなことを考えながら昇降口まで来ると、追いかけてきた夏弥が転んだ。
「いったぁ……。二回目なんて!」

 さっきも転んでたのに……実は運度神経良くないとか?

 俺が手を差し出すと夏弥は俺の手を掴んでくれた。なんでだろう……嬉しい。
「ありがと、葉月」

 俺は我に返ると、夏弥から直ぐに離れようとした。けど、夏弥の手が俺の手を掴んだまま離さないで引っ張った。

「待って、と言うか待ちなさい、葉月」
 何で命令口調なのか……。
 夏弥、俺は、親友として……親友?俺は夏弥を親友と思っているだけなのか?
 親友……?

「葉月……何があったの?」

 夏弥の心配そうな表情を見て俺は気付いた。俺は……親友だと思ってない。

「……ごめん、夏弥」

 夏弥、俺はお前が大切だから……お前の本当の親友をお前から離したりしない。
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