ワタシなしで廻る世界
 その医師の名はオスカー・グレンという。人並み以上の苦労を重ねたせいで年に似合わぬ白髪頭は、一人きりの閉ざされた場所であっても、髪油を使ってきちんと整えられている。
 今は接眼レンズに隠れて見えない明るいエメラルドグリーンの瞳は、鋼の意志を物語るように強く光り、いつでもまっすぐに未来を見すえる。ちなみに、若干の三白眼である。
研究室にはずらりと実験器具が並ぶ。
 浮世から隔離された研究室で、オスカーは熱心に顕微鏡を覗く。
検体は、病原体としてはリスクグループの危険度マックス、二十一世紀で言うところのBSL(バイオ・セイフティ・レベル)-4に分類されるシロモノだ。
 プレパラートの下で、ウィルスが元気に動き回っている。
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