ワタシなしで廻る世界
 制服を着たメイドや、警邏中の警官、靴磨きの少年や物乞いの子供たちが闊歩し、あるいは佇む大通りは今日もいつもと変わらず雑然としている。見慣れた平和だ。
 誰にも何にも一瞥をくれず、ブーツの靴底をガツガツと鳴らし、大股で目的の店へと急ぐイヴリン・グレンの姿は人目を引く。
 金と銀を足したような、淡いブロンドの髪を頭のてっぺんで結い上げている。
 明るいエメラルドグリーンの瞳は、ぶれずにまっすぐに前を向いて光る。彼女の心の強さを物語る、若干の三白眼である。
 黙っているときつい印象。
 笑えば、蕾が綻ぶように華やかで可憐でもある。
 けれどイヴは滅多に笑わない。
 明けても暮れても働きに働いて、短い人の世の春の盛り、その全てを労働に捧げる毎日は、はっきりいってつらい。
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