夢見る乙女
今思えば、この時から私の運命が変わったのだった。





カサリ。
寝転んだベットの枕元で何かが音を出した。
何か置いてたかな、と思って手を伸ばすと硬い紙のようなものに行き着く。
「んー?何これ」
引き寄せて見るとそれは白い封筒だった。
『古賀明日香様』と表に宛名があるだけで送り主の名はない。
「何これ」
再びそう呟くと同時に恐怖感を覚えた。
明日香は一人暮らしで、近頃人を入れた事はない。そして前に見た時に無かったものが今ある。
とすると誰かが留守の間に侵入した可能性が高い。
刑事なんだから、落ち着け。そう自分に言い聞かせて明日香は部屋を見回す。

荒らされた形跡は無く、家を出た時のそのままの状態であると思われた。
再び封筒に目を落とす。そして恐る恐る封を切った。
中には一枚のカード。
一番に目に飛び込んだのは薄く印刷された赤いバラ。
そして、書かれている短い文に目を通した。
「へ?」
もう一度読み返して明日香は困惑した。
「……はあ?」
カードには
『古賀明日香
今宵は夢の国へお越し下さい。あなたがご所望の名探偵がおります。頭を悩ませるのにお疲れになったならば、彼におまかせ下さい。夢の国までご案内いたします。
           夢の国の案内係』
そう書かれていた。

「夢かな?」
思わず頬をつねる。鈍い痛みが疲れた脳を刺激した。夢でも痛みを感じるならもはや判断できないが、一般的に考えるとは自分は起きていることになる。

夢じゃないのなら。
今までの思考を読んだようなこの文面は何だろう。一体だれがこんな封筒をここに置いたのか。
そして気がつく。
この封筒はさっき自分が横になる時にもなかった。つまり、今突如として現れたとういことを。
あまりの非現実さに明日香は唖然とした。
「えーと…」
これは、あれだ。整理が必要だ。警察で言うなら「確認しますっ!」と言うところ。
不思議なことに恐怖はなかった。むしろ腹の底からおかしさが込み上げてくる。

「フハハッ。夢の国って…そんな都合のいい夢あったらとっくに見てるっての!」
名探偵だ?何、その人が事件解決してくれんの?

もう一度頬をつねる。やはり痛かった。夢から覚めるにはこの程度の痛みでは足りないのだろうか。
「すごい発見だわ…」
頬をつねって痛ければ現実という今までの常識が覆されるのだ。
カードに目を戻す。消えずに存在感を示し続けるそれに、明日香はため息をついた。

もういい。疲れてるんだ、私は。だって何日も寝てないから。だから起きながらにして夢を見る。
「…疲れた。」
1時的な興奮状態から冷めたまぶたは自然に落ちてきた。
疲れきった明日香の意識はすぐに無くなった。



< 2 / 13 >

この作品をシェア

pagetop