とびっきり、片思い。




テレビのCM中、手元にある数日前に届いた、養成所の更新手続きの案内用紙を眺めた。


本当にお芝居をやっていきたいのか違うのか、最近よくわからなくなって、心が揺れている。


近頃レッスンで、泣きの演技というものをやっているんだけど、何度やっても涙が出なくて先生から「やる気あるの?そんなんじゃ、仕事来ないわよ」と言われ続けている。


もっと簡単に出来るものだと思っていたのに、つまづいてしまった。


ここで悔しいからもっと頑張るんだって思えるのが、きっとお芝居をやっていく人なんだろう。


今の私には、それだけの努力をする情熱が無いのかもしれない。



『では、次のコーナー≪ゲストにインタビュー≫です』



CMが切り替わり、再びカナタが出演している番組司会者の元気な声が聞こえてきて、私は視線を画面に戻した。



彼は少し照れたように微笑しながら質問に答えてる。



うふふ、可愛いなぁ。


見ているとつい顔がにやける。




『では、最後の質問です。
最近、カナタさんのプライベートで起こった面白い出来事を一つ教えてください』


『じゃあ、僕がコンビニに入った時の話をします』



コンビニという言葉を聞いて、私はあの日のことを思い出さずにはいられなかった。


カナタは、順序だてて説明をしている。



『むすびを買おうと思ってたんです。だけど、買いたかったおかかのむすびは1つしか残ってなくて…』


『なんと、1つしか残っていなかった!』



まるで、あの時のことみたい。


やはり彼は、おかかのむすびが好きなんだと思った。


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