とびっきり、片思い。


重たい足を一歩一歩前に出して、やっと家の前に着いた時、ふと上を見ると部屋に微かな明かりが灯っていて、今日は母の仕事が休みで家にいることを思い出した。


スクールバックから手鏡を取り出し、表情をチェックした。


よし、何事も無かったように笑えてる。


無理矢理、口角に力を込めた。



帰宅した私を、案の定母は笑顔で迎えてくれた。


「フルーツロールケーキ買ってきたのよ。手を洗って、食べましょ」

「うん」



好物があるのに、ちっとも気持ちの底からパワーが出ない。


母の前ではやっぱり、作り笑顔は通用しなかった。


「どうしたの。学校で何かあった?」

「ど、どうして?別になんもないよ」


咄嗟に出た嘘だった。


『聞いて!』なんて切り出せるわけがない。


森りんが言った“架空”という言葉が、いつか母から言われたものと重なったんだ。



「わー、ロールケーキ美味しそう!いただきます」


ニッコリと笑って、頬張った。


甘くて美味しい、口の中に広がっているこの味が、現実なんだ。私の今に、ちゃんと向き合わなきゃ。



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