とびっきり、片思い。
贈り物##中田side##
それは、卒業式の日から遡ること一週間前の出来事だった。
品川で空手の稽古を済ませ、帰り支度を終えて、更衣室からちょうど出た時に師匠と先輩が話している声が聞こえて来た。
「そう、アイドルのカナタも通ってるんだよ」
師匠がアイドルネタを出すなんて珍しいと思いながら、話題に上がっているその名前を聞いて、帰ろうとしていた足を止めた。
そして身体の向きを360度変えて、師匠のもとへ行き、話に割り込んだ。
「何処に通ってるんすか?」
「最近行くようになった整体だよ。すぐそこの」
師匠は意外にあっさりと教えてくれた。
どうやらそこはビルの小さな一室で開業していて、師匠は施術を終え、仕切り一枚だけを挟んだ向こう側の待合スペースに戻ると、そこにいたのがカナタだったようだ。
「木曜日の午前中。俺のあとに受けたみたいでさ。つい挨拶しちゃったんだよね」
ガハハと大きな口を開けて笑いながら満足そうに言った。
「でさ、そこの整体がすんごい良いのよ。だから康太(こうた)におススメしたいって思ったわけ」
康太先輩は最近右手がうまく引けなくなっていて、もしかしたら身体のトラブルが原因かもしれないと、師匠が整体を薦めたそうだ。
「お前は行かなくても大丈夫だろうけど。な?」
師匠が笑いながら言った。
「今は大丈夫ですけど。今後の参考として、よければそこの整体教えてくださいよ」
そう答えたら、意地悪っぽく笑って、後ろの棚に置いた鞄から整体の案内を取り出してくれた。
「完全予約制。施術は大体10分で、1回5千円」
「マ、マジですか!?」
余りの高級さに目玉が飛び出そうになったのは言うまでもない。