とびっきり、片思い。
届け
朝焼けが眩しいのは、雨が降る知らせだって聞いたことがあったけれど、それは本当だった。
整体を目指して家を出発した時には雨が降っていて、傘を指しながら、駅を目指した。
下車した品川駅で、懐かしい気持ちになった。
ここには思い出が詰まっている。
養成所に通っていた時とは違う出口から出て、整体が入っているビルへと早足で向かった。
その日の午前11:45のことだ。
さっきまでの雨が嘘のように、外はきらびやかな光で満ちていた。
管理人やエレベーターが見渡せるくらいの狭いビルのロビーには、ソファーが置いてあり、私はそこに座って彼の到来を待ち構えていた。
隣には、あともう1名いる。
それは読書中の母だ。
整体で施術を受けるわけはないけれど、ついて来てくれたのだ。
1時間くらい待っても、現れない彼に諦めかけた時だった。
斜め前にある、ロビーの自動ドアが音をたてて開いた。
一瞬で、入ってきた人が彼だと分かって、自然と背筋が伸びた。
本当にいる!しかも一人だ。
彼はサンダルを履いていて、大きな歩幅で音をパタパタとさせながら、前を通過して行った。
次の瞬間、私の中でスローモーションのように感じられていた世界が、秒速で走り出す。
私はハッとして、まだ本に視線を落としている母の肩を叩いた。
「お母さん、カナタだ!」
「わっ!?ホントだ。早く追いかけなきゃ。エレベーター乗っちゃうわよ」
そ、そうだ!
急いで立ち上がったけど、緊張で足が前に出ない。