とびっきり、片思い。
5階で降りると、前方には薄暗い廊下が続いていた。
築年数が結構経っているのか、古い建物の匂いがする。
そこには私と母以外の人の気配がないから、静かで、不気味にも思えた。
503号室を探して、率先して歩いてくれる母の後ろをついて歩く。
「ねぇ、やっぱ下に戻りたい。扉の近くで待ってるとか、めちゃくちゃ怪しいよ」
弱気になっている私を見て、母は強く言った。
「中田君がくれた、このチャンスを無駄にしちゃダメ。一回きりだと思って大切にしなくちゃ。カナタがそこの扉から出てきたら、今度こそ追いかけて行って、一緒にエレベーターに乗って話すんだよ。私は、もうひとつのエレベーターで、あとから行くからね」
今更だけど、私にそんなことが出来るのか不安になっていた。
でもこのチャンスという贈り物を無駄にしたくはない。
震える手で、鞄の中の封筒を触った。
ここまで来たんだ。逃げるな私…。