とびっきり、片思い。
やっぱり、彼と私は住む世界が違うんだ。
それを、見せつけられているようで胸が痛い。
彼はすぐ傍にいるのに、とても遠くに感じた。
一行が横を通り過ぎて行く時、私は下を向いてしまった。
耳に届いた、いつもはスピーカー越しにある彼の笑い声が切なくさせた。
同じ空間にいられたのは、数十秒程度だっただろう。
あっという間に外に行ってしまった。
「何ボーっとしてるの?追いかけなきゃ」
「うん...」
隣からする母の声が、ぼわぼわとする。
ダメだ。もう、勇気が出ない。
微動だにしない私に対して、それでも母は背中を押し続けてくれた。
「チャンスの女神は後ろ髪がないのよ!」って言って、私の背中を軽く叩いた。
そうだ、これを逃したら、こんな機会もう二度とないかもしれない。
その時、中田の笑顔が浮かんだ。
そして、森りんの顔も浮かんできた。
がんばれ!って、どこかで見守ってくれているような気がしたんだ。
ここに来れたのは、私だけの力じゃなくて、この想いを応援してくれた人がいるからなんだと、思い出した。
目の前にいる母もその一人だ。
「行ってくる!」
息を大きく吸って、立ち上がり、母に傘を預けてから、ついに一歩を踏み出した。
このままじゃ後悔は目に見えていた。
もちろん、追いかけて行っても後悔する可能性はある。
だったら、やって後悔する方を私は選ぶんだ!