とびっきり、片思い。
彼は、ムッとしたような表情で私を見下ろした。
サングラス越しでも、なんとなく感じとってしまった。
こんなところまでやってきて、出待ちのようなことをしたのだから、迷惑がられるのは当然だ。
キュッと目を閉じて、下を向いていると、頭上から優しい声が降ってきた。
半ば信じられないという気持ちで、ゆっくりと顔をあげて、もう一度彼をみた。
「...なんだっけ、名前」
「え?」
「君の名前」
「あ、あらがき みさです」
「未紗ちゃん、ありがとう」
名前を呼ばれた。
驚きと感動で胸がいっぱいで、もうそれ以上言葉が出なかった。
気づいたら右手を前に出していて、付け足すように言った。
「よければ、握手してもらえませんか?」
「ああ、うん」
静かに重なった、形の良いスッとした指を持つその手は、思ったよりも冷たかった。
現実だということを確かめるように、左手も添えて、その手をぎゅっと包み込んだ。
「お忙しいところ、話してくださってありがとうございました」
そう告げて、ゆっくりと手を離した。
「じゃあ」と言って、彼はたった今自動で開いたドアから車に乗り込んだ。
すぐに扉は閉められ、出発のエンジンがかかる。
深くお辞儀をして顔をあげると、運転手さんが微笑して私を見ていた。
大通りから一本入った中道のこの場所は、普段から人通りが少ないのか、それとも運が良かったのか、私とカナタが話している間は誰も通らなかった。
遠ざかっていく車がどんどん小さくなって、本当に見えなくなるまで、ずっと見送っていた。
透き通るような光が空から降り注いだ。