とびっきり、片思い。
電車の中で中田は静かだった。
どうして、急に好きな人はいるのかと聞いてきたんだろうと不思議に思った。
ただホームでの沈黙を避けたかっただけで、質問に深い意味はないのかもしれない。
車中は混んでいて座れるところが無かったから、並んで吊革につかまって立っていた。
最寄り駅に着くまでの間、会話はなかった。
ほぼ30分間無言で、窓の外に流れる黒の世界に浮かぶビルの灯りや、壁に貼ってあるカラフルな広告たち、そして窓に映る私たちの姿を私は眺めた。
下車したあと中田とは、出口が違うから改札のところで別れた。
よくよく思えば中田は、私を名前で呼んでくれたことがない。
事あるごとに妖怪ツインテールという、あだ名ばかり使う。
何故か理解が出来ないけれど、今はそれどころではなかったことを思い出した。
私は、彼が触れた右手の指先を見つめて、きゅっと左手で覆うように握った。
月明かりに照らされる道を歩きながら、彼の指先の感触を思い出そうとした。
一瞬の夢だったのかな。
再び襲ってくる興奮をおさえきれず、走り出した。
家はもうすぐそこだ。