とびっきり、片思い。


もちろん驚いたが、それ以上に俺の胸の中はざわついた。


その話をする新垣の表情がすげえ嬉しそうだったから。


コンビニの一件に対しての俺の冷静な受け答えに、信じてもらえていないと思ったのか、新垣は身を乗り出して行った。


「な、なんで驚かないの?あの国民的アイドルのカナタだよ!」


そうか、有名人に会えたんだから喜んで当たり前だよな。


俺もその場にいたこと、知らないんだろうな。


「え、ああ、マジか!」



そのワンテンポずれたリアクションに不服そうにしているから、俺は一言付け加える。


「あり得るよな。ここ東京だし」


そう言いながらも、俺は今日まで芸能人とすれ違ったことはなかった。


けれど、それは気づいていなかっただけかもしれない。


新垣は一通り話し終え落ち着いたのか、俺が品川にいた理由を聞いた。


空手のことを伝えたら、「中田って強いのね!」と爽やかな笑顔で言った。


脳天から足裏までビビビッと電流が通ったみたいに、俺の身体は熱を帯びた。


「な、なんだよ急に…」


余裕を無くしている心臓の音を悟られそうで、顔をそらした。



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