とびっきり、片思い。
平凡な時
翌日の土曜日、午前中に森りんに電話を掛けた。
昨日カナタに会えたという出来事を、聞いてもらいたくてウズウズした。
話を一通り黙って聞いてくれたあと、『すごいね!』と『良かったね!』を連発して、最後には『自分のことみたいに嬉しいよ』って、優しい声が受話器の向こうで響いたんだ。
中田と偶然会ったことも話したら、そのことにも驚いていて、話がとても盛り上がった。
武術を極めていることを伝えると、森りんが自分は少林寺拳法を習っていたことがあったと教えてくれた。
何だか格好いい。
午後から私は、部活があるから学校に向かった。
外に出ると目に映るもの全てがキラキラと輝いて見えた。
昨日のことを思い出すたび、胸が弾む。
ひゃっほー!
叫びたくなる気持ちをぐっとこらえて歩く。
道の少し先に、見覚えのある人たちの背中を見つけた。
「咲ー!」
そう呼ぶとすぐに気づいてくれて、立ち止って振り向いた。
咲の横には、私のクラスメイトの三星 桜(みつぼし さくら)ちゃんがいた。
桜ちゃんは、吹奏楽部の部長でもあり、私と同じフルートを担当している。
彼女が奏でる音色は、みんなが聴き惚れてしまうほど綺麗なのだ。
2人のもとに駆け寄ると、「やっほぉ」と、それはそれは穏やかな笑みを浮かべる桜ちゃん。
「オエッ、来たんかい!」と、オーバーリアクションなのは咲。
「その言い方やめてよね。もぉー」
咲に向けて笑いながら怒った。
弄ってくる点においては、中田と被るところがあるのかもしれない。