とびっきり、片思い。
「修学旅行に行く」
振り向いた母は少し驚いたような顔をしたが、すぐに「そう」と短く言って微笑んだ。
そして火を止めて、私の方に近づいた。
「これを選んで良かったって思える日が、いつかくると思うよ」
頭を優しく撫でながら言った母の言葉には力があった。
本当にそうなるような気がした。
横田さんに連絡するために家の電話の受話器を取った。
“夢”って、何だろう?
私は、何のために養成所に通っているんだっけ?
役者をしたいから。
彼に会いたいから。
その答えはどれも単純だ。
この世界に入りたいと思ったきっかけは彼だった。
だけど今は、お芝居を純粋に楽しんでいる自分がいる。
そのはずなのに、何でだろう。
分からない。
頭の中がぐちゃぐちゃにかき乱される。
やりたいことは、やれているはずなのに。
時々こうやって、思い描いている夢が一体何なのか分からなくなる。
こんな自分が嫌になる。