とびっきり、片思い。
嬉しい知らせ##中田side##
あー、またやっちまった。
森川の数学のプリントを自分のに写しながら、心の中では新垣にしてしまったことに対して少しばかりの後悔を覚えていた。
元はといえば、いつも別の方を向いて、俺には目もくれない新垣が悪いんだ。
今日は、髪を切ったことに気づいて欲しかったのに、髪の“か”の字も言ってくれねえし。
なんてブツブツ思ってしまう俺は女々しいのだろうか。
こっち見ろと念力を送っても届かず、その視線は窓の外に向いたままだ。
もしかしてカナタのことを想っているのだろうか。
一瞬よぎった考えを消そうと、ブンブンと頭を振って再びプリントに視線を落とした。
「お、写す位置、間違えてんぞ」
「ああ、千田(せんだ)か」
後ろから指摘が聞こえてきて誰かと思ったら、俺の親友ともいえる男だった。
ニヤニヤとしながら顔を寄せてくる。
どうやら、5番の問題の答えを6番に書いてしまっていたようだ。
「あと2分で鳴っちゃうぞー、頑張れ」
「おう」
俺に応援の言葉を残し自分の席に戻ろうとする去り際に、「お前、新垣に見とれてたろ」とボソッと言ってきた。
反射的にシャーペンを机上にバンッと置いてしまった。
その音がデカく響いて、みんなの視線を浴びた。
新垣も見ている。
こんな時に限って目が合った。
「ち、ちげえよ!」
「ハハハッ。ま、応援してんぞ」
俺の嘘っぽい反論は聞こうともせず、余裕気に千田は手を振って席についた。
千田には1年の彼女が出来たばかりで、仲睦まじい姿が羨ましいくらいだ。
いつか俺にも、幸せな瞬間が訪れるだろうか。