青く、高く、潔く
翌朝……
母さんが俺を起こす声で、目を覚ました。
「………まだ眠いッス。血ィ採るの…もうちょっと後で…。」
「………は?」
「………ん?」
キョトン顔で…対面したのは、看護師…ではなくて。母さんであったことに……ちょと驚いた。
「……間違えた、ゴメン。」
病院では、朝の採血と…検温が挨拶がわりだっただけに。
俺の日常は…すっかりそっちが当たり前になっていたようだ。
「起きたついでだし…、体温計りなさいよ?」
けれど、やっぱり検温からは…逃れることは出来ないらしい。
受け取ったそれを…脇に挟めて。
長いこと…待った挙げ句。
「いつまで測ってるの?」って、母さんに突っ込まれた。
「……鳴った?」
「うん。」
「……………。……そっか。」
母さんは薄々は感じていたようだったけど…、俺は、この電子音を聞き取ることが出来なくなっていた。
高音域の音が…聞き取りづらくなったのは。
1回目の…治療の後。
悪化したように思えるのは…
4回目の治療の…後だ。
書き留めていたからわかったけれど、どうやら…同じ薬による副作用らしい。
そういった異変にも……そうは驚かなくなっていた。
大好きだった……焼き肉。
節約家の母さんが奮発して用意してくれた、昨夜の高級肉も…。
いざ、食べてみたら。4枚ほどで…もう満足だった。
余り食欲がないって言って誤魔化したけれど……
本当は。味覚も変わったんだって…自覚していた。
現に、病室に用意していた、ドライフルーツにも……。食欲がそそられることがなかったから。
母さんが寂しそうにする一方で……、俺は、このことを余り苦には感じていなかった。
それは……、周囲がそれに気づいて、サポートしてくれたからだろう。
涼が俺に放った言葉は…絶大で。
正直に周りに触れることで…、周りの反応も変わってきたのだ。
人に甘える生き方を…
その、心地よさを……知ったから。
案外…、へこたれもしなかった。