青く、高く、潔く

ニット帽を深く被っていた君は…
目の前にやって来た…俺を、俺だと分かるまで。暫くの時間を…要した。


突如腕を掴まれて、驚いていたのかも…しれない。

けれど、それは…

そうじゃあなかった。

ニット帽を、半ば強制的に…めくりあげると。

大きな目を真っ赤にさせて、それでも、しっかりと対峙しようと…じっと、俺の目を見てくる君の姿が…あった。


「………たいせー……」


言いたいことは…沢山あった。

「なん…で?」

何で…お前が滑らないんだ?

「どうして…?」

なのに。どうして…、ここにいるんだ。


どれも…、言葉になどならなかった。

声が詰まって…、言いたいことが、言えない。

いいや、君が……それを言わせまいとしているのか。


代わりに、どっと…涙が溢れて来て。

止めどなく…こぼれ落ちて。

ウエアーに、シミを作っていく。



君は……以前に会ったその時よりも。
一回り…小さくなって見えるほど、痩せていた。

『早く戻って来い』などとは…言えなかった。

なのに…、だ。


君は、めったに見せることない…無邪気な瞳で笑って見せるから。


俺は、自分が抱えるぐちゃぐちゃの感情を…整理することは…叶わなかった。


「モト。」

「……………。」

「……おめでとう。」

「……3位なのに?」

「それでも。……スゲーいい滑りだった。」

口角が…きゅっと上がる瞬間を。
俺は…見逃さなかった。


俺は、君に…認められたかったのか?


もう一度…言ってくれた、その言葉が。

「おめでとう」のひと言が。

これほどまでに…嬉しいだなんて。


それでも。何を、どう…伝えたらいいのか。俺に…その術は分からなくて。

グローブを投げ捨てて…
それから、ぎゅっと握った拳を…君の前へと、突き出した。


幼き日から続く…、俺らの儀式。


戻って来い、たいせー。
次は…お前の番だ。


いつかの…逆。



きっと君に…伝わるだろうと、そう願って。








< 119 / 152 >

この作品をシェア

pagetop