青く、高く、潔く
ニット帽を深く被っていた君は…
目の前にやって来た…俺を、俺だと分かるまで。暫くの時間を…要した。
突如腕を掴まれて、驚いていたのかも…しれない。
けれど、それは…
そうじゃあなかった。
ニット帽を、半ば強制的に…めくりあげると。
大きな目を真っ赤にさせて、それでも、しっかりと対峙しようと…じっと、俺の目を見てくる君の姿が…あった。
「………たいせー……」
言いたいことは…沢山あった。
「なん…で?」
何で…お前が滑らないんだ?
「どうして…?」
なのに。どうして…、ここにいるんだ。
どれも…、言葉になどならなかった。
声が詰まって…、言いたいことが、言えない。
いいや、君が……それを言わせまいとしているのか。
代わりに、どっと…涙が溢れて来て。
止めどなく…こぼれ落ちて。
ウエアーに、シミを作っていく。
君は……以前に会ったその時よりも。
一回り…小さくなって見えるほど、痩せていた。
『早く戻って来い』などとは…言えなかった。
なのに…、だ。
君は、めったに見せることない…無邪気な瞳で笑って見せるから。
俺は、自分が抱えるぐちゃぐちゃの感情を…整理することは…叶わなかった。
「モト。」
「……………。」
「……おめでとう。」
「……3位なのに?」
「それでも。……スゲーいい滑りだった。」
口角が…きゅっと上がる瞬間を。
俺は…見逃さなかった。
俺は、君に…認められたかったのか?
もう一度…言ってくれた、その言葉が。
「おめでとう」のひと言が。
これほどまでに…嬉しいだなんて。
それでも。何を、どう…伝えたらいいのか。俺に…その術は分からなくて。
グローブを投げ捨てて…
それから、ぎゅっと握った拳を…君の前へと、突き出した。
幼き日から続く…、俺らの儀式。
戻って来い、たいせー。
次は…お前の番だ。
いつかの…逆。
きっと君に…伝わるだろうと、そう願って。