青く、高く、潔く


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大成が前シーズン、ゲレンデに顔を出したのは…

遠いアメリカの地が最後であったと聞く。


以来、君の噂は…
耳には…入って来ない。
















ここは…、日本の地。
私が立っているのは…広く視界が拓ける、コースの上…では、ない。


「ひゃああっ!」

ドシャ…、と雪の飛沫を上げて。

背中から…雪の中へと突っ込んで行く。


バラバラに弾き飛んだ…スキー板。



「…………こわっ…。」

軽く…頭を打って。

それを擦りながら…上体を起こす。


「………もう一度。」

腕組みをしたコーチが。

さらり。と難題を…突き立てる。

慣れない長さの…板。
もっと慣れない、後ろ向きでの…走行。


ここまで恐怖に苛まれるのは…初めてのことであって。

けれど…、経験したことのないスリルは、私を虜にするまで…そう時間はかからなかった。


これで…空を跳ぼうなど、夢のまた夢に…近いことなのか?


今、私がいるのは。

普通の…ゲレンデ。その、コースを終えた…

リフト乗り場に近い、緩やかな…斜面の上。

5月の…連休。とは言っても、休みなど…ある訳でもなく。

新しい競技、それを教える…新しいコーチの指導のもと、練習に励んでいる。



私は…高校に進学し、
辞めようと思っていたスキーを…辞めることは、しなかった。

理由は…1つ。


自由でいいのだと……君が言ったから。




大成が…競技から離れてしまったことは、決して…彼が望んだことではないと…知っている。

一年の半分。いや…、それ以上に。

凍てつくほど寒い雪山で…過ごして来た君が。
君が飼っていた悪いやつを…よもや雪山に埋めてしまうような方法で退治した、と聞いた時は。驚きと…妙な納得とで…複雑な想いをしたけれど。

自分の足が…残ったこと。

ただ、それだけで。
君は…喜んだ。


モトに聞いても、多くは…語ることはなく。

一度繋いだ骨が…骨折したこと、学校には…登校してるってこと。

それだけは…
知ることが出来た。



「お願いします!」

しっかりと嵌めた…板を。
斜面に一度…パン、と叩きつけて。

後ろ向きになって…再び、同じ練習に挑んだ。




今はまだ……、君たちの足元にも及ばない。

基本中の基本さえ…出来やしない。


けれどいつか。

きっと…いつか。


同じ視線で…
同じ景色が見れる日が来るだろうと。


私は…、信じている。

















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