青く、高く、潔く


山から戻って来る頃には…、地元の街は…薄暗く、街灯が…灯り始めていて。

父の車から、自宅前へ降り立った私は…ふと、恋しく…なっていた。

今日は…何故か、君の顔ばかりが…浮かんで。
思うように滑ることが…出来なかったから。

普段…思い出そうとしなくても。一旦思い出してしまえば…、その想いは、大きく大きく膨らんでしまう。



「太成不足…、か。」

携帯1つあれば…、君の近況も、ちょっとした…動向も窺い知ることが…出来た。

けれど、今は、全く…それすらない。

彼が…ファンに宛てた…メッセージ。それを最後に、また…それらが、滞っていたから。

ひとたび競技を離れれば…、メディアだって、そう頻繁に追うことはない。

車から…ごっそりと。
スキーの用具を玄関の中へと…運びいれて。

それから…

決心が揺らがぬうちに、お父さんへと向かって……叫んだ。


「お父さん、ちょっと…出掛けて来る!」

「はあ?今から?!」……なんて…、余計な世話を焼かれる前に。

さっさと玄関外へと…飛び出して。
自転車へと…またがった。


向かう先は…、そう、君の元。


少しだけ、ほんの…少しだけの充電が…欲しかったから。






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