青く、高く、潔く

大成の部屋だと思われるのは…、2階。
道路沿いに面した…格好の場所。

コアなファン達が…ここに集って。
そこへ、携帯のカメラをむけていたのを…見たことがあった。

勿論…、止めに入ったけれど。

君が…顔を出さないか、いいや、出して貰っては…困るって。ちょっとしたスリルが…あったものだ。


見上げる部屋には…電気が灯っていて。
かたく閉ざされたカーテンが今…、偶然、開かれることがないかなあ、て。

願うようにして…見つめた。


さっきの電話で……

私は、モトに何も言えなかった。

「ありがとう」も、「ごめんなさい」も、彼に掛ける言葉としては…どれも、違うような気がして。

今できる…自分の精一杯で。応えようと…誓った。

もう一度…携帯電話を開く。

今度は…ちゃんと。

君の名前に…辿り着いて。
深呼吸を…2回。きちんと動悸を抑えてから…タップしようとしていた。

………と、その時。


たった1回の…コール音。

それが…耳元で流れる途中で。



2階のカーテンが…勢いよく、開いた。


カラカラ…と音を立てて。
今度は、窓が…開く。

鳴り続けたままの…スマートフォン。それを片手に持って。

画面と…私とを…目線を行ったり来たりさせながら。


君は…ようやく、こっちを向いた。


「……リョウ。何で…ここにいんの?」


「…………。」

「いつぶり…だったっけ。髪…伸びた。」

「そっちこそ。毛が…ある。あと、眉毛も。」

「……そっか、もう…そんなになるんだ。」

会えなかった期間を…まるで、あっという間に過ぎていった、って言われているようで。

一人空回りする自分が…恥ずかしい。


「待って。今…そっちに行くから。」


君はそう言って…、窓を開けたままで。
姿を…消した。



「こっちに…来ちゃうの?」

遠目でもいい、顔を見るだけでも、と…そう思って来たから。

手の届く距離に来ることが…少しだけ、怖かった。




やがて、目の前に現れた…君は。
いかにも部屋着…といったラフな格好で。

足元に至っては…サンダル。

急にプライベートを覗き見た気分になって…胸が、再びトカトカと…音を立てた。

「重装備だね。」

大成が発した第一声に…私は、ハタ、と気づく。

「……ゲレンデにでも行ってた?」

「………うん。」


しまった。
5月の街中で…保温性のある長袖。

見た目もどうかと言ったところ…道理で…暑い訳だ。


「スキーのハーフパイプ。…始めたんだろ?」

「………。あれ?何で知って……。」

「メディアで報道されたし、それに……スキー、続けてたから、いくらでも情報が…入ってくる。」

「………………。」

大成が…私のことを、知っている?


「若干1名、情報屋も…いるし。」

ん?情報屋…?

「今さっきも。ソイツから…電話来たとこ。」

「………は?」

「リョウがここに来るかもって。」

それって……、モト?


「で?……何しに来たの?」

「…………。」

何って………。何…したかったんだろう。

大成の顔が…見たくなった。
それはもう…叶った。

話を…したかった。
何を?



今、何をしていて…
今、何を…考えていて、

これから…

そうだ……、これから…君は。どうして行くのだろう…、と。



「大成が…どうしてるかなって。」

「今?……勉強してた。」

「勉強?!大成が?」

「一応…俺、受験生。それに、今までずっと…してこなかったし、入院してたりで…置いてきぼりくらってる。」

「…………。それから?」


「『それから』…?……板は…もう、ずっと履いてない。軽い運動くらいはしてるけど…、まだ、無理は利かないから。リハビリ程度に…付加かけてるって程度。」

「……それで?」

「………もう…、惨めじゃあない。俺の夢は…アイツが代わりに叶えてくれる。」

「…………。」

「それに、リョウも…頑張ってるから。」

「………………。」

「そういう姿を…見せつけられると。スゲー刺激になる。」

「……アンタは?」

「……?」

「それで…、アンタは。どう…したいの?」






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