青く、高く、潔く
「……できるなら…。もう一度。もう一度だけ…チャンスが欲しい。板を履く…チャンスを。」
「……………。」
「出来ないかも…しれない。大きな舞台には…戻れないって。自分でも…分かってる。けど、まだ先のことなんて…誰にも分からない。」
「……うん。」
「だから…、リョウ。後ろ振り返らなくて…いいんだよ。」
「………え?」
「前だけを向いて…、自分のことだけ…考えて。先を…行ってよ。」
「大成……。」
「考えてみたら…、さ。楽しいことばっかだったよ。スキーに出会って、リョウに出会って。リョウに…追い付きたくて…。モトに負けたくなくて。今だって、そう。同じ。楽しくて夢中になって続けて来たにことに…後悔はない。ただ、何で?っては…思う。あんなことにならなけりゃあって。自分はどこまで行けたのかなあって。でも……、そうじゃなければ…気づかなかったことも沢山あったよ。色んな人に…助けられてさ。仲間がいて…、慰め合うばかりじゃあどうにもならないって。また、一から…。これからいくらでもある時間の中で、どこまで行けるか。ただ、スタートに戻っただけなんだなあ…って。」
「…………。」
「治療に入る前なんか、もうだめなのかもしれないって…覚悟なんかしたりした。リョウにやモトをスキー場に誘ったのも…、最後かも知れないからって。」
あの時…、確かに太成は…おかしかった。
まるで…何もかもを。一人で抱え込むようにして…。
「大成……。ねえ、知ってた?」
「…………。何?」
「私…、アンタのことが好きだったの。」
「……知らない。今…初めて知った。」
「私は…アンタが居なかったら。もっと簡単に、スキーを辞めてたかもしれない。続けようと思ったのは……、大成との繋がりを…持っていたかったから。少しでも…アンタに。近づきたいと…思ったから。アンタが見てきた世界を、私も…見てみたいと思ったから。自由になっていいって…アンタが言ったから!」
「………………。」
君は…無言のまま、頷いて。
同じ高さの…目線を。真っ直ぐに…揺るがなく、私に…向ける。
「………俺達…、これから何かが…変わるの?」
「……え?」
「振り返らなくていいって…、言ったよ、俺。」
「……………。」
「目標は…もっともっとこの先で。今…ここで簡単に叶ったら…意味がない。」
「…………。」
「待っててとは…言えないし、足止めするような真似も…したくない。ただ、俺らが…大人になって。その時…どんな状況になっていても、それでも、好きだって…思っててくれるなら。その時は…こっちから…ちゃんと言うよ。」