青く、高く、潔く


選手のアタックは…次々と続いて行き…。

俺は、ぶつぶつと呟きながら…その、完成度はいかがなものか、と…自分なりに考察していった。

用意してあった双眼鏡で…じっくりと…堪能する。


こうやっていると…点数をつける難しさというのが…よーく解る。

グラブの持つ位置は?
空中での姿勢に、バランスは?

ボトムの走行はスムーズか?
高さは?

「………バックサイド テン…。………キャブ テン……。」

1つ1つの技に…その、合間にも。全ての動きが…得点に関わって来る。

俺の隣りに座るオジサンは……おそらく、主催側のお偉いさんなのだろうけど。


「おお~………。」

「凄いですねえ。」

「いやあ、華やかだなあ。」

などと…素人発言を繰り返していた。
多分…、この度初めて…俺の名前を知ったクチだろう。

代わりに…、馴染みのリフト乗り場のオッチャンは。

きっと…ルールが精通しているのだろう。

俺が、いい!と思った…トリックには。大抵彼も…盛大に拍手を送っていたのだから……。


2組あるうちの…2組目。
その、終盤に……差し掛かっていた。

役員の一人に促され、自分の準備へと…取りかかる。

名残惜しい気もしたけれど…。ここ、自分の…ホームグラウンドで。
恥を晒すことだけは…出来ない。

入念に準備体操をしよう、と…取り敢えずパイプに向かうべく、2人乗りリフトへと…腰をかけた。


これもまた……とても見所ある、良いコースだった。

上空、しかも…真横から。選手の滑りが…見えそうだった。


俺は早速、耳にイヤホンを付けて。
自分お気に入りの曲に乗せて…テンションを上げていく。

女性シンガーの曲が……耳元で流れて。

けれど…、そのうちに。

ズシンと響く…一定の重低音が。それに混ざるようにして…耳に届いた。


次に滑る選手の選曲が…、レゲエかなにかなんだろう。

大して気にも留めずに。
歌詞を口ずさみながら――…。


スタート地点に…目をやった。





もちろん、スクリーンなどないから…。選手の素顔など、わかりゃあしない。


スタートをきったのは…。小柄にも見える…地味な選手。


俺は…実況解説者にでもなった気分で。

「いよいよドロップインです!」などと…言ってみた。

正確な…ドロップイン。

滑りを見る限り…、彼は、レギュラースタンス。

Rにしっかりと沿うようにして……

1ヒット目のエアーは?


「………。ウッソ?!」


リップ……ギリギリ。

音もしないくらいに…するりとリップから抜け出した…身体は。

これまで見たどの選手よりも、高く、高く……

空を…駆けて行く。

「バックサイド…エアー…。」

回転もなにもない、オーソドックスな…エアー。


けれども、その難易度どうこうじゃなくて……高さが…半端ない。

「おいおい、デイビット並じゃねーの?」

けれど。
ここからが…勝負。

2ヒット目のエアーで。
この選手の本質が…見えて来るはずだ。




ボトムランにも…無駄がない。
基礎がしっかりと出来ている…証拠だ。

さあ、こい!


……2ヒット目。

テイクオフは…さっきと同様。
あそこまで待って跳ぶのは…勇気がいる。


「…………キャブ テン…。」

これもまた、スタンダードなスイッチ技。


でも……、待て。
さっきのエアーと、高さが…そう変わらない?!

観客から…大きな歓声が上がっている。

それに……、パイプへの着地の位置。
リップtoリップ…。

そうだ、だからスピードを殺すことなく…走れるんだ。


ここまで来ると。
次のエアーへの期待が…一層高まって来る。


なのに…、だ。


リフトに乗っている俺と、選手が走行する方向は…正反対で。

身体を後方に捻って、なんとか見れた…3ヒット目。


………マジか…?


難易度の高い…ダブルマックツイスト。


「凄いのが一人…いるんだな。」








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