青く、高く、潔く
いよいよ…、パイプのスタート地点。その、近くへと…到着し。

各選手のアタックを見つつ…軽くストレッチを図る。

「……あ。」

出番待ちする選手の中に…、一人。

ポツンと…。

離れて立っている者が…あった。


「………あいつだ…!」

予想通りに…、小柄な体形。

若干グレー味のかかった、上下黒の…地味なウエア。

既にゴーグルをかけた、その顔を…窺い知ることは叶わないけれど、このゲレンデから、世界で戦える程の選手が生まれるかもしれないってなれば。

俺にとって、最高の…ライバルになり得るだろう。

俺は…他の選手ににじり寄って、情報収集すべく行動に…取りかかった。

「すみません。さっきの予選2組目のトップって…あの選手…、ですか?」

声をかけられたライダーは、

「おっ、里谷元成!」
うっかりだと願いたいが…、驚きの余り、フルネームの呼び捨てになっていた。

「すみません…、つい。あの…、さっきのルーティーン、最高でした!」

大柄で…態度もデカイそうな男が。
突然…ペコリと頭を下げる。


「………。ありがとうございます。」
いい人だなあ…。失敗の少ない構成だったのにも関わらず、そういってくれるなんて…。

「あの人ッスよね。なんちゅーか、レベルの違いを見せつけられた気分です。一般参加のアマチュア選手らしいですけど…、彼のお陰で、得点の基準が決勝に入ってから厳しくなってますね。自分はパイプはじめて2年くらいッスけど…。足元にも及びません。」

「……ふーん…。ってか、2年?!凄いね。」

「……バスケの合間に、アソビ程度くらいには板に乗ってましたからねー。」

元々運動能力に長ける男なのだろう…。
こちとら、何年も…この競技をしてるっていうのに…。


「あ……、そうだ。名前は?」

「自分ッスか。」
いや、違うけど…。うん、でも…彼の名前もまた、知っておきたい。

「自分は内藤 乃…あ!…『亮』です。内藤 亮ていいます!」

「リョウ?」

「……はい。『りょう』!」

「……そうですか。」

リョウ…、か。
そう言えば…地元への凱旋だってのに…何の音沙汰もないな。

テンション…駄々落ち。

「あ。もしかしてあの人の名前聞いてましたか?」

彼は少々焦った様子で…、さっきの黒ずくめの選手を…指差す。

一方で、指をさされた彼の方は…。
集中を高めているのか、耳にイヤホンを付けて…。じっと、微動だにせず。その場に…佇んでいる。

「あの人は…。……えーと…、山田…太郎です。」

「え。」

「『山田太郎』…さん。」

「………へー…。」

古風かつ…、今時のキラキラネームと比較すればなおのこと、珍しい名前だ。

有り難いな、忘れずに…覚えて居られそうだ。


「あ、じゃあ俺、そろそろ出番なんで…。下から応援してます!」

「そっか。……頑張って下さい。」

リョウ選手は、ニカっと笑って見せると…。

俺に背を向けて、ゆっくりとスタート位置へと…移動し始めた。


「リョウ、かあ。こっちも…忘れられないな。」




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