青く、高く、潔く


『リョウ』は、ほぼノーミスで滑りきり…、厳しくなったと言う点数も、89.55の高得点を出して…トップに躍り出た。

どうやら…結構な実力者であったらしい。
能ある鷹はなんちゃらって言うけれど…、謙虚な男だ。



けど……、おかしいな。
さっきの選手紹介で……違う名前、呼ばれてなかったか?







さて、


競技者は……残すところあと、2人。

その一人は…、山田太郎。

入念に準備へと取りかかり…、その間にも、周囲に目をくれることもなかった。

なかった、はずなのに……。



じっと、

じいい………っと。

執拗に視線を送り続ける俺に…。

とうとう、くるり、と。
顔をこっちに向けて。

数えること…数秒。

その間、首を固定させたかのように…静止して。

ゴーグルに隠された、彼の目が…
おそらくだけど、俺をしっかりと捕らえているんだろうって…思われた。


「……山田…、太郎さん?」

相手は…何も言わずに。代わりに…少し、乾いた咳を繰り返した…後、

ようやく、コックリと1つ……頷いた。


「さっきのライディング…見てました。あなた程の実力のある人が…、なぜ、こんな小さなコンテストに?……あ、イエ…、ここが悪いとかそういうんじゃないですよ。ただ、勿体無いなって……。」

「………………。」

「あの、……聞いてます?」

なんて…やりづらい相手だ。
表情が読み取れない分、どう接したら良いのかが…分からない。


「この舞台に合った滑りをしろと?」

「えっ…?」

口…きいた!

「どこのどんな場所であろうと…、どんなコンテストであろうと。自分のベストのライディングをするだけ。アンタは…違うの?」

「……………はあ?」

なんだ、こいつ……。
それじゃあまるで俺が、ナメてかかってるような…言い草じゃないか。

そんな想い持ってたら…、ここにいる筈もないだろ。

「………バーカ。」

「はああ~っ?!」


最高の…侮辱。
失礼極まりない発言を残した…山田太郎は。

己のベストなライディングを見せる…と豪語した、その瞬間を…迎えようとしている。


「里谷元成…さん。」

スタート位置に立ったヤツが…
一度、俺の方へと…振り返る。


「……見てろよ。」







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