青く、高く、潔く
知り合いが雑誌に載るって、もっと誇らしくて…自慢したくなるものかと思ったけれど。
私は…違っていた。
中学3年……
代わり映えのない顔触れ。
2階から3階に上がっただけの…教室。
南側の窓から日が差し込んで来ることもまた…、変わりのない、日常。
左利きの私にとっては、手元に影がさして。
少しだけ…
鬱陶しく感じるのも、いつものこと。
「涼、何読んでるの?」
「んー?……何でもない。」
パタリと閉じた雑誌、
その、表紙に…
小さく載った君の写真。
「スキーの雑誌?てか…、げ、英語じゃん!」
友人のカンナは、君の存在に気づくことなく。
ページをパラパラと捲っては……
目をぱちくりさせていた。
内心――
ホッとする自分がいる。
「どこの雑誌?」
「……。アメリカ。」
「普通に読めちゃうのが凄いし。あ…、まさか、涼載ってるの?」
「まさか!」
「……。ふうーん…?」
彼女のページを捲る手が。
ピタリと…止まる。
「この子……。」
「…………。」
「この前、テレビでドキュメンタリーしてた!『友利大成』。うちらの…1コ下でしょ?すごー、雑誌にも載るくらい海外でも有名なんだー。」
「…………。」
「………?涼?」
「……あ…、うん、凄いよね、確かに。」
「オマケに、可愛い顔してる。ちょっと生意気だったけどねー。」
君が凄いことも。
人見知りで愛想ないけど、可愛い所もあるってことも。
私は、もうとっくに気づいていた。
それが――…
今では。
「好物は干し柿って…、渋いよね。彼のブログに載ってた。」
どんどん、どんどん…
他の人にも知られていく。
それが。
時々…堪らなく嫌になる。
「ジュニアの強化選手じゃないの?涼、彼と会ったこと……」
「……カンナ。」
私は彼女から雑誌を取り上げて…
にこりと笑って見せた。
自分の中の黒い部分を…
隠すようにして。
「スキーは、趣味で、遊びの延長で…、もう――…」
「勿体無い。才能あるのに。」
プライドだけが…残されて。
まるで、言い訳しているみたい。
才能って…、ナニ?
彼みたいに強くもなければ、向上心もない。
度胸も…ない。
小さい頃から当たり前みたくして乗っていた2本の板。
人よりも上手く乗れたからって…
それが、才能だとは限らない。
現に…、
今は――…どうだ?
成長期でぐんぐん伸びる背に、重たくなる体に。
全てが…追い付いていかない。
綺麗なフォーム。見本のような滑りだともてはやされてきたけれど。
格好ばかりで…タイムを競う競技には向いてないと、気づかされた…14歳の冬。
シーズン通しての不調・不振に、ついにはジュニアの強化チームメンバーから外された。
アルペン女子の新星などと…誰が言った?
期待を寄せていたはずの両親も、
騒ぎ立てていた友達さえも。
もう何も…言わなくなっていた。
勿体無いだなんて言うのは。
……カンナくらいのものだ。