青く、高く、潔く



俺らがいつも滑っているのは…、固い、人工的な斜面。


だけど、ここは……、


ハーフパイプの壁とは勝手が違う。



アップダウンどころか、ずっとずっと…下降して。


サラサラとした雪は、舞い上がっては…顔面に向かって。


息つく暇もないくらいに…スピードに乗る。





エッジの跡を残して、


新雪に刻んでいく…軌跡。






豆粒みたいに小さかったリョウの背中が、次第に…大きくなって。



慌てて…雪煙を起こす。












あれは…、まだ、幼稚園の年長児の頃だった。







親父に放り込まれた、スキー教室。


この、ゲレンデで。




俺らは――…出会った。








コーチの娘だったリョウは、最上級者グループの『エキスパート』に所属していて。


俺たち初心者グループのへろへろのボーゲンを嘲笑うかのようにして、すぐ側を…パラレルで通り過ぎた。



エキスパートに、女の子は…一人。



大きな小学生に混ざって、滑降していく姿は…目立たないハズはなかった。






同じ年の俺らに刺激を…、と、思っていたのだろう。



ある日、俺らグループのコーチは、リョウを呼び出して。



ボーゲンの見本をやらせて見せた。







「下手くそ。」



中でも一番チビだった大成の滑りを、リョウは鼻で笑った。





コーチの思惑通り…だった。





身長も態度もデカイい女に負ける事だけが悔しくて、上手くなりたいというより、勝ちたいと思う気持ちが勝って。


1シーズンで、一段一段、グループの階級をあげていったのだ。




リョウに追いついたのは、小学校1年のシーズン途中。



けれど、まだまだ技術は劣っていた。


基礎が完璧で。


多少のコブでも、衝撃さえ感じさせない、……。

柔らかいく両者ピタリとくっついた…膝。



ブレることのない、そのスタイルは……


もはや、大人顔負けの技術であった。





俺は、どこかまだ……粗削りで。

同じチームに所属しているのに、彼女は…

とにかく、別格だった。













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