青く、高く、潔く
一般のスノーボーダー向けの、小さなキッカー。


そこに挑むのが…、
世界屈指のプロライダーだなんて。


何だか――…不思議な気分だった。





「リョウ、行くぞーっ!!」




モトが声を上げて…、私に大きく手を振る。


リアクションがオーバーな辺りは、やっぱりまだまだ子供っぽさが…残っているけれど。

いざ、滑り出すその瞬間には――…


あどけなさの面影は、微塵もない。



彼の力強い滑りは、ひとまわりもふたまわりも…彼を大きく見せて。


ダイナミックなエアーへの期待を。見る者への興奮を…与えていく。




キッカーでオーリーをした身体は。


宙を切り裂くようにして――…舞い上がった。



爪先で踏み出す…「トゥ抜け」。

反時計回りに一回転しただけの、フロントサイド360は…、いつもの彼がする複雑な回転技とは違って
至ってシンプルなものだけど……。


そこには、華があった。


絶対的な安定感…、
魅せる、ジャンプ。




「高い…。」



着地はもちろん余裕で――…、

私の目の前まで滑り降りてから、ザアッと雪の飛沫を上げて、止まった。


「リョウの前で飛ぶって…、ちょっと緊張した!なあ、どうだった?!」

緊張よりも、興奮が勝った様子で…
モトは、意見を求めた。


「うん…、モトってさ、スロープスタイル(※)でもいけるんじゃない?」





モトのダイナミックさとポテンシャルを持ってすれば…、

ハーフパイプの壁に阻まれた狭い空間よりも、開放的なコースで魅せることだって…簡単じゃないかって思った。


「マジか!最高の褒め言葉だけど…、うん、そりゃムリだな。俺、ジブ超苦手だし。」


「……あー…、そっか。なるほど…。」


「でも、コースで跳ぶのってさー…、視界がもっと拓けて、うん……、たいせーの言う通り、確かに空が近く感じるよなー。」


「………?」



彼は、天を仰いで。


太陽の光をグローブをはめたその手で…遮りながら、二カッと笑った。





どんな世界が…見えているのか。


私には、知る術もないけれど――…。きっと、大成にインスパイアされて、彼と同じものを…見ようとしているのだろう。




そうであるならば、



大成…。アンタの視界に映るモノは…


一体、どんな世界なの?






。゜・* 。゚*。゚ *・*・* ゚。*゚。*・゜。

(※)スロープスタイル…ソチオリンピックより、オリンピック正式種目になった競技。コース前半は、レールやボックスなどの『ジブセクション』を選手が選択しながら挑む。後半は、キッカーなどでの連続した『ジャンプセクション』で、トリックを披露する。
いずれも、コースを滑走しながら攻略していくスタイルである。

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