青く、高く、潔く




初夏の、朝の―…出来事だった。



「大成…、今シーズンどころか、いつ復帰できるかも…解らないってよ。」

父のそんな言葉に。


私は、持っていたグラスを…床に落とした。











ニュージーランドでのデビュー戦を控え…、アメリカ合宿に向かった君。



ハーフパイプの練習中に。
ソレは…起こった。




その、前日までは。何の前ぶれもなく…
仲間たちと和気あいあいとした様子を、ブログに公開していた。


なのに――…、だ。




「一本目のトリックで体勢を崩して…ボトム落ちしたらしい。一時は意識失くして現地の病院に搬送されたらしいけど――…」



「大成が…、ボトム落ち?待って、そんなの…有り得ないし。」



正確なドロップイン…。

彼のライン取りは、幾度とない反復練習によって見誤ることなど…なかったハズだ。


リップギリギリから飛び出した身体は。染み付いたS字の軌道を描いて…反対側のリップギリギリに降りてくる。


リップtoリップは、名の知れたトップライダー達からも称賛されるほど、彼にとっては呼吸の如く、当たり前にこなしていた…ことだった。




それが…、なぜ?



床に散らばったガラスの破片――…。
スリッパの裏で、踏んでしまったソレは…。

鈍い音を立てて。


更に…粉々になっていた。



「涼。足切るぞ?危ないから…動くな。今箒持って来る。」



ソファーに座っていた父は、読んでいたスポーツ紙を閉じて…。徐に、立ち上がった。




「怪我くらい…、平気だもん。」


小さく呟いた声は。


父には……届かなかった。





私は身を屈めて、破片を…拾い始める。




「いたっ……。」



指先から滲む血を……口元に当てて。

次第に込み上げて来る涙を、必死に…堪えた。




地に落ちて、割れたグラスは…


元には戻らない。





なぜ、彼だったのだろう。


なぜ、私じゃなかったんだろう…。





先にコースアウトしたのは―――…




天才と呼ばれた、まだたったの14歳の―…少年だった。






















< 46 / 152 >

この作品をシェア

pagetop