青く、高く、潔く
初夏の、朝の―…出来事だった。
「大成…、今シーズンどころか、いつ復帰できるかも…解らないってよ。」
父のそんな言葉に。
私は、持っていたグラスを…床に落とした。
ニュージーランドでのデビュー戦を控え…、アメリカ合宿に向かった君。
ハーフパイプの練習中に。
ソレは…起こった。
その、前日までは。何の前ぶれもなく…
仲間たちと和気あいあいとした様子を、ブログに公開していた。
なのに――…、だ。
「一本目のトリックで体勢を崩して…ボトム落ちしたらしい。一時は意識失くして現地の病院に搬送されたらしいけど――…」
「大成が…、ボトム落ち?待って、そんなの…有り得ないし。」
正確なドロップイン…。
彼のライン取りは、幾度とない反復練習によって見誤ることなど…なかったハズだ。
リップギリギリから飛び出した身体は。染み付いたS字の軌道を描いて…反対側のリップギリギリに降りてくる。
リップtoリップは、名の知れたトップライダー達からも称賛されるほど、彼にとっては呼吸の如く、当たり前にこなしていた…ことだった。
それが…、なぜ?
床に散らばったガラスの破片――…。
スリッパの裏で、踏んでしまったソレは…。
鈍い音を立てて。
更に…粉々になっていた。
「涼。足切るぞ?危ないから…動くな。今箒持って来る。」
ソファーに座っていた父は、読んでいたスポーツ紙を閉じて…。徐に、立ち上がった。
「怪我くらい…、平気だもん。」
小さく呟いた声は。
父には……届かなかった。
私は身を屈めて、破片を…拾い始める。
「いたっ……。」
指先から滲む血を……口元に当てて。
次第に込み上げて来る涙を、必死に…堪えた。
地に落ちて、割れたグラスは…
元には戻らない。
なぜ、彼だったのだろう。
なぜ、私じゃなかったんだろう…。
先にコースアウトしたのは―――…
天才と呼ばれた、まだたったの14歳の―…少年だった。