青く、高く、潔く
突如、目の前に現れた…真っ白な雪壁に。
「えッ…!」
思わず…
ギュッと――…目を閉じた。
「…………?」
けれどソレが……全くの別物だっただなんて。
誰が…予想できただろう。
「大成!」
呼ばれた名前…、
ハッキリと耳に届いたのは、その、何度目だったのか――…。
次に目を開けた時には、よく見知った顔が、俺を覗きこんでいた。
「………。成島…コーチ?」
「よう、大成。随分、寝たなあ。」
その人物が、チームの遠征コーチであることに…何ら疑問を抱くことはなかったのに。
彼の肩越しに見えたのが、雪壁なんかではなくて……
オフホワイトのただの「天井」だった、その事実に。
酷く…、違和感を覚えた。
「…………。」
「……どうだ、気分は。」
「………――頭が…痛いです。」
「ん――…、そうか。吐き気は?」
「ないです。」
話している側から…
アタマに、鈍い痛みが…走った。
身体を起こそうとするけれど、「おっと…。動いて駄目だ。」とコーチにそれを制される。
「お前…昨日のこと、覚えてるか?」
「――……はい。」
脳裏に残るぼんやりとした残像は……
夢…では、なかったのだろう。
「………ボトムに落ちて…、それから、レスキューが来て…。」
「ああ。なんだ、ちゃんと覚えてんじゃん。昨日は、忘れたとかなんとかフワフワしたこと言ってたけど――…。」
「…………。」
沢山の声と…。
気の知れた、仲間達の顔。
ひたすら呪文のように、「大丈夫」と――…
繰り返して。
周囲を安心させるように、
自分に言い聞かせるように…唱えていた。
いくつかの会話のやりとりも…していた。
「大成。お前、自分でどうしてこうなったか…解るか?」
「………………。」
「……なあ、――…いつから?」
「…………!」
「……一体いつからだったんだ?」
コーチは、自嘲気味に呟いて…。
自分の髪を、わしゃわしゃと―…掻き乱した。
俺は、その問いに…答えることはできずに。
コーチが身体の横でギュッと拳を握り締めているのを…
視界の端で捉えながら。
考えを、巡らせていた。
「お前の親御さんが…明日ここに来る。大成…、デビュー戦は…お預けだ。帰国して、治療に専念しろ。」
「―――………。」
いくつかの検査をしたことも――…ハッキリと覚えている。
「幸い、中度の脳震盪。それから――…」
心臓が、小さく音を立てた。
『それから……?』
「……イヤ、取り敢えず…、今の所は安静にしてるしかない。脳挫傷はないようだったけれど、また競技に戻って再度頭を打つようなことがあると、セカンドインパクト症候群って言って重症化する恐れがある。」
「………どうやって治すの?」
「何も…。日常生活を過ごしていいし、治療もなくて済んだ。」
「けどさっき、『治療に専念しろ』って。」
「……バカやろ……、そっちの治療じゃねーよ…。」
覇気のない声は。
狭い病室の中へと……静かに、響いた。