青く、高く、潔く
夜の病室は…ひっそりとしていて。
こんなにも静かなんだと…初めて知った。
ナーススリッパが床を擦る音が…時折…廊下を通り過ぎる。
なのに…
夏菜の寝息も、
秀子さんのイビキも、
今日だけは…届いて来なかった。
胃の不快感は。一層…強まっていた。
消灯が過ぎて…どのくらい経っただろう。
「大成くん、大丈夫?」
隣りのカーテン越しに、秀子さんの心配そうな声が…聞こえた。
「大丈夫です。」
「困ったことあったら遠慮なく起こしてね?」
「………ハイ、ありがとうございます。」
それから、また……しばらく経つと。
「大成、寝れないの?」
今度は…、夏菜の声。
「寝てたよ。今、夏菜の声で…目が覚めた。」
「………。トランプしよっか?頭使うと、眠くなるかもしれないし……。」
「――……、逆に、頭が冴えちゃう。夏菜にだけは、負けたくないし。」
「じゃー、羊を数えるのは?ナツは羊見たことないからイメージできないし…、『執事』を数えるけどね。」
……………シツジ?
「最高に嫌な人が執事になったら、増えて来ると…いらっとするでしょう?『ご主人様、早く寝なさい』って、言うから…。そしたらもう嫌になって、ぎゅっと目を瞑って…早く寝ろ…早く寝ろ…、って、呪文がかかるの。大成だったら、ノアが執事かな?」
「……夏菜の頭ン中、1回覗いてみたい。どーゆー思考してんだよ。」
突っ込みドコロ満載なのに。
名の上がったノアは……何の反応もしなかった。
「じゃー、覗いていいよ、カーテン開けて、おいでよ。いっつもノアとそうしてるでしょう?今日はナツ、眠くないし。」
「……………。」
無理だって……言いそうになって、
けれど、喉まで出てきたソレを…胃液と共に、ゴクリと飲み込んだ。
「………………………。」
「…………?大成…、寝たの?」
「………………眠くなってきた。オヤスミー、夏菜。」
「………おやすみ……。」