青く、高く、潔く
君の治療の経過は…順調で、
3クール目が無事に終わって…、予定では、あと1クールの治療をしてから…再来月には、癌のある骨を取り出す手術をすることになったらしいけれど。
お父さんは、曇った顔で…その話をしていた。
まだ、どうなるのかわかんないから……
顔を出すなら、今のタイミングがいいだろうって。
ドウナルノカ…ワカラナイ
この、言葉が……、病院に向かうその道中で。
何度も…頭をこだまするんだ。
大成の…病室の前には、大成を始め、あと4人の名前が書かれてあった。
「………。フリガナがないと、読めない…。」
世に言う、キラキラネーム?
大変な治療をしているって聞いたのに…大部屋だなんて、気を遣って…ココロが休まることがないんじゃないかって…ふと思ったけれど。
そこから溢れてくる、沢山の笑い声に――…
少し…
ホッとした。
でも……。大成は人見知りだから、その輪に入って行けてるのかは……
わからないけど。
ドアを開くと、真っ先に目に入ったのは……
1つのベッドに、頭をつき合わせるように集まっている…子供達。
皆の手元には、トランプ……?
そのうちの、一人の男の子が…私の姿に気づいて。
「やっべ、本物の『ババ』が来たあ~!!」って…声を上げた。
ば……、ババ?!
その声に反応して。
ベッドに腰を掛けて背を向けていた人物が……
ゆっくりと…振り返る。
「……………。………涼。」
一瞬――…、
君が、私の名前を呼ぶまで…
誰だか、わからなかった。
人相が…、違って見えたんだ。
多分……、私は。招かざる客だったのだろう。その表情は…明らかに強張っていたのに。
「しつれーだな。けど…お前らから見たら、確かにババかもなあ。あ、俺から見てもか。」って……やんわりと笑って見せた。
アンタも十分失礼だし!
顔がひきつるのを…、何とか堪えてみる。
「大成……、何してんの?楽しそーだね。」
「何って…、遊んでるよ。治療してるよーに見える?」
私は、黙って…首をふるふると振った。
この、和やかで温かい空気を…壊してはイケナイって、自制心が働いたらしい。
「涼は学校帰り?」
「えっ…。」
「だって、制服。」
「………ああ……。」
「初めて見た。」
「………そう?」
もっと……突っ込んで聞いてもいいのに。大成は…そうはしなかった。
制服姿…、初めて見るんでしょう?
どう思った?
それに、今日は…土曜日だよ?
学校なんて…ないんだよ?
そんな私の思惑など……
全くの関係ナシに。勝負は……続いていく。
立場のない私は 彼らにすり寄って…
大成の一騎討ちの相手…、さっき「ババ」呼ばわりした男の子の手札を覗きこんだ。
「…………。ババをちょっと上に上げてごらん?」とこっそり耳打ちすると。
大成は僅かに…眉をしかめた。
いや………、しかめたハズの眉毛が…、ない。
だから―――…
印象が違って見えたんだ……。
上にあげたカードの上部にちょん、と触れて。私は、ニヤリと笑う。
「大成っ、こっちはババだから…引かないほーがいいよ?」
「……………。」
大成の手は…、左右のカードの間を行ったり来たりして。真剣に…悩んだ挙げ句に。
ひょいっと引き上げたソレを……
自分の目の前まで運んでから、一気にひっくり返した。
「………って、ホントにババかよ!」
その時の君の顔は……
『しょーもないな』って困ったかのように…ない眉を下げて。けれど、悔しそうな言葉とは裏腹、めちゃくちゃ柔らかい顔して……笑っていたんだ。